☆デュオ刺激で採卵の総数は増加しない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、デュオ刺激(Duostim)で採卵の総数は増加しないことを示しています。

 

Hum Reprod 2024; 39: 538(イタリア)doi: 10.1093/humrep/dead276.

要約:2019〜2021年にデュオ刺激の効果を調査するランダム化試験を行いました。対象は、25〜40歳、AMH≦5 ng/mL、前回のAFC≦6かつ採卵数≦5個で、今回の11mm以上の卵胞数≦9個の患者48名グループA24名は、アンタゴニスト法+FSH製剤(ゴナール150IU→フォリスチム225IU)+hCG5000トリガーで採卵し、新鮮胚移植 を行いました。グループB24名は、アンタゴニスト法+FSH製剤(ゴナール150IU→フォリスチム225IU)+GnRHアゴニストトリガーで採卵し、FSH製剤(フォリスチム225IU)を中止することなく、引き続き卵巣刺激を行い(デュオ刺激)、hCG5000トリガーで採卵しました。なお、採卵担当医にはAB群を知らせず、10mm以上の卵胞のみを吸引してもらいました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

        グループA   グループB   P値

採卵周期①    23名     23名     〜

FSH基礎値    9.7      9.8     NS

刺激日数     9.9日     9.9日    NS

トリガー日E2値  881     924     NS

採卵数      5.3個     3.3個    0.004

成熟卵数     4.1個     3.0個    NS

良好初期胚数   3.0個     1.9個    0.04

 

採卵周期②    0名     14名(9名は卵胞発育不良でキャンセル)     

刺激日数     〜〜     10.3日    〜

トリガー日E2値  〜〜     239     〜

採卵数      〜〜     3.1個     〜

成熟卵数     〜〜     2.4個     〜

良好初期胚数   〜〜     0.8個     〜

 

採卵周期①+②累計

採卵数      5.3個     5.3個    NS

成熟卵数     4.1個     4.3個    NS

良好初期胚数   3.0個     2.7個    NS

NS=有意差なし

 

解説:2016年に初めて行われたデュオ刺激では、採卵の5日後から2回目の刺激を開始しました。最初の前向き観察研究(43名) では、採卵周期①と②の間で採卵数や凍結数に有意差はみられませんでした。その後5論文が発表され、採卵周期①よりも採卵周期②の方が採卵数が多くなることが報告されました。しかし、残念なことに、すべてのデータは観察研究または後方視的研究であり、ランダム化試験が必要でした。

しかし、2022年と2023年に発表されたランダム化試験では、採卵数は従来型の採卵周期2回の場合と同じであることが示されました。デュオ刺激では、初回の採卵後に急速な黄体溶解が起こるため、黄体期開始の卵巣刺激とは同じではありません。採卵後できるだけ早く2回目の刺激を開始すれば、このような急速な黄体溶解のマイナス点を打開できるのではないかとの推測の元に、本論文の「FSH製剤を中止することなく引き続き卵巣刺激を行うデュオ刺激」で初めてのランダム化試験が実施されました。しかし、2回目の刺激に対する反応不十分によるキャンセル率が39.1%と高く、採卵周期②が完遂できた14名も採卵数が思ったほど伸びず、「FSH製剤を中止することなく引き続き卵巣刺激を行うデュオ刺激」は無効であることが示されました。

 

同じ卵巣刺激の薬剤で採卵周期を2回行ったにもかかわらず、採卵周期①+②の累計採卵数が同じだったことは不思議な感じがします。しかし、採卵周期①では、グループAがHCGトリガー、グループBがGnRHアゴニストトリガーと違っています。この違いが採卵周期①の採卵数を減少させた可能性がありますので、しっかりトリガーを使うのが良いと考えます。