☆人工授精における卵胞と多胎妊娠の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、人工授精のトリガー日に12~14mmの卵胞が存在すると多胎妊娠のリスクが高くなることを示しています。

 

Hum Reprod 2024; 39: 335(中国、英国、オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/dead259

要約:2007〜2021年人工授精を行った7,504名12,933周期を対象に、トリガー日の卵胞数・大きさと多胎妊娠の関係を後方視的に検討しました。全体の臨床妊娠率は16.1%(2,081/12,933)、多胎妊娠率は10.5%(218/2081)でした。14~16mm、16~18mm、18~20mmの卵胞数の増加に伴い、臨床妊娠率が有意に増加しました。10~12mmの卵胞2個以上で臨床妊娠率は1.22倍(95%信頼区間1.02~1.46)、12~14mmの卵胞2個以上で臨床妊娠率は1.29倍(1.07~1.56)に有意に増加しました。また、12~14mmの卵胞1個で1.73倍(1.19~2.53)、卵胞2個で2.27倍(1.44~3.56)多胎妊娠が有意に増加しました。一方10~12mmの卵胞の存在は多胎妊娠と有意な関連を認めませんでした。

 

解説:卵巣刺激を伴う人工授精は、シンプルで費用対効果が高いため、原因不明または軽度男性不妊の第一選択ですが、多胎妊娠リスクを伴います。体外受精では移植胚数を1個にすることで多胎妊娠を抑制することができますが、人工授精では多胎妊娠を制御する方法はありません。したがって、トリガー日の卵胞数・大きさと多胎妊娠の関係が重要ですが、多胎妊娠のリスクを大幅に増加させる卵胞サイズに関するデータはありません。14mm以上の卵胞数と妊娠率および多胎妊娠リスクとの間に正の相関があることが知られていますが、より小さな卵胞の影響は不明です。このような背景の元に本論文の検討が行われ、10~12mmまたは12~14mmの卵胞が2個存在する場合に妊娠率が高くなること、12~14mmの卵胞が存在すると多胎妊娠のリスクが高くなることを示しています。したがって、10mm以上の卵胞、特に12mm以上の卵胞は、超音波記録の際に明記録することが望ましいです。なお、本論文の問題点は、単一施設による後方視的研究であること、卵胞の記録が2mm間隔であることです。