デュファストンとウトロゲスタンの比較 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、黄体ホルモン補充として、デュファストンとウトロゲスタンを比較したランダム化試験です。

 

Hum Reprod 2024; 39: 403(ベルギー)doi: 10.1093/humrep/dead256

要約:卵子提供女性30名(35歳未満、月経周期整、AMH正常範囲、BMI<29)を対象に、アンタゴニスト法+FSH/HMG製剤+ダブルトリガー(hCG1,000IU+トリプトレリン0.2mg)で卵巣刺激を行い採卵を2回実施しました(1ヶ月以上間隔をあけて実施)。採卵後、デュファストン10mgx3/日あるいはウトロゲスタン200mgx3/日を1週間使用し、1日目と8日目に血液を採取し、ジドロゲステロン(D)、20αジヒドロジドロゲステロン(DHD)、黄体ホルモン(P4)を測定しました。また、8日目に採取した子宮内膜の組織学的、トランスクリプトーム、免疫担当細胞を分析しました。なお、2回の採卵は、「デュファストン→ウトロゲスタン」と「ウトロゲスタン→デュファストン」に分けたランダム化、クロスオーバー、ダブルブラインド試験としました。21名の女性が全ての行程を完遂しました。デュファストン投与後1日目の平均最大血漿濃度(Cmax)は、D 2.9 ng/mLDHD 77 ng/mLであり、Cmaxは、D 1.5時間DHD 1.6時間後でみられました(Tmax)。8日目のCmaxは、D 3.6 ng/mLDHD 88 ng/mLで、Tmaxはどちらも1.5時間でした。一方、ウトロゲスタン投与後1日目のP4のCmaxは16 ng/mL、Tmax は4.2時間で、8日目のP4のCmaxは21 ng/mL、Tmaxは7.3時間でした。子宮内膜組織全てが分泌期(着床期)の子宮内膜を示しました。RNAシークエンス分析では両群に有意な遺伝子変化はみられませんでした。免疫担当細胞分析では、デュファストンと比べウトロゲスタンでCD3 T細胞、γδ T細胞、B細胞が低下し、NK細胞が増加しました。

 

解説:ART治療(体外受精、顕微授精)では、黄体期ホルモン補充が必要です。欧州ではウトロゲスタンなどの膣剤が最も適用されていますが、デュファストンなどの経口製剤は使いやすく費用もお手頃です。デュファストンは、その特徴的な立体異性体構造により、黄体ホルモン受容体に対する親和性が高く、低用量で子宮内膜形質転換を誘導するとの報告があります。各群1000人以上の大規模なランダム化試験により、デュファストンは膣剤と比べ、安全性や成功率が劣っていないことが確認されました。しかし、それぞれの薬剤の薬物動態を示した研究はありませんでした。このような背景の元に本論文の検討が行われ、デュファストンとウトロゲスタンの薬物動態には違いがあるものの、子宮内膜の組織学的および遺伝子発現に有意な変化を認めなかったことを示しています。本論文は症例数が少ないという問題点はありますが、ランダム化試験によりデュファストンとウトロゲスタンの違いを直接比較した初めての研究です。デュファストンは急速に代謝されるため、投与頻度が重要であるものと考えます。