☆AZFc欠失のある男性のART治療成績:メタアナリシス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、AZFc欠失のある男性のART治療(体外受精、顕微授精)成績に関するメタアナリシスを行ったものです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 63(インド)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.10.029

要約:2023年4月までに発表された、AZFc欠失のある男性のART治療成績に関する13論文3,807名を対象に、メタアナリシスを実施しました。なお、AZFaあるいはAZFb欠失を持つ男性の精子回収は確認できませんでした。AZFc欠失のある男性429名の精子回収率は、欠失のない男性3378名と同等でした(オッズ比 1.82、95%信頼区間0.97〜3.41)。 しかし、AZFc欠失のある男性では、受精率(オッズ比 0.61、95%信頼区間0.50〜0.74)、臨床妊娠率(オッズ比 0.61、95%信頼区間0.42〜0.89)、出産率(オッズ比 0.54、95%信頼区間0.40〜0.72) が有意に低くなっていました。また、両群の分割率、胚盤胞率、良好胚、着床率、流産率には統計学的な有意な差を認めませんでした。女性因子を補正すると、AZFc欠失のある男性では、受精率(オッズ比 0.76、95%信頼区間0.71〜0.82)、分割率(オッズ比 0.54、95%信頼区間0.41〜0.72)、臨床妊娠率(オッズ比 0.39、95%信頼区間0.30〜0.52)、出産率(オッズ比  0.48、95%信頼区間0.35〜0.65)が有意に低くなっていました。

 

解説:AZFa欠失はSCO(Sertoli cell-only)に、AZFb欠失は成熟停止(maturation arrest)と生殖細胞停止(germ cell arrest)と関連しているため精子は作られていません。一方、AZFc欠失は精子形成不全に関連しているため、精子は作られていますが、ごく少数のみです(高度乏精子症)。AZFc欠失の男性からは精子回収が可能であるため、ART治療が行われますが、その臨床成績に関するメタアナリシスは実施されていませんでした。本論文は、AZFc欠失のある男性のART治療成績に関するメタアナリシスを行ったものであり、AZFc欠失のある男性では、受精率分割率臨床妊娠率出産率が有意に低下することを示しています。

 

下記の記事を参照してください。

2024.2.19「AZFc微小欠失で精子を認める場合の精液所見の経時的変化

2013.6.14「☆☆AZF遺伝子微小欠失