Q&A3948 最善の胚選択は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2022.12.19「嬉しい報告とQ&A3515 ブログで得た知識で出産、第2子希望で相談」、2023.2.8「Q&A3566 異常受精ばかりです」、2023.4.5「Q&A3622 採卵前に排卵してしまいました」、2023.6.6「Q&A3684 第2子の胚選択は?」、2023.9.19「Q&A3789 第2子の胚選択」でご相談させていただきました。お忙しい中、毎回ご丁寧にご回答くださり大変感謝しております。

前回以降の経過
8月 ホルモン補充周期で4AA胚盤胞(IVF)1つ移植→陰性(hCG 1.9)
→慢性子宮内膜炎の抗生剤(シプロキサン+フラジール)を予防投与(再検査はせず)
9月 銅の数値が高かったので移植周期に入れず
10月 採卵を実施+新鮮初期胚移植→陰性(hCG<0.3)
11月 家庭の事情でお休み
12月 自然排卵周期で4AA胚盤胞(ICSI)を1つ移植→陰性(hCG<0.3)

12月は自然排卵周期にて周期開始時に松林先生ご提案でフェマーラを2日間服用し、その後トリガーを打って排卵確認後、6日目に11G3→4AA(ICSI 胚盤胞)を移植しましたが、年始の判定日で陰性に終わりました。良好胚を移植したのにまた陰性だったことが大変残念でした。判定日に土信田先生と相談して不育症の血液検査と慢性子宮内膜炎の再検査をすることにしまして、不育症はプロテインC活性が高値である以外は正常でした。そして、全く想定外でしたが、慢性子宮内膜炎が++(18個/20HPF)で再発しておりました。。今回慢性子宮内膜炎が陰性だったなら、腹を括って松林先生からも勧められていた胚盤胞2個移植に踏み切るつもりだったのですが、ここにきて慢性子宮内膜炎再発という事実を目の当たりにしたら、今後の移植方法に対して考える余地があるのではないかと悩み始めました。

慢性子宮内膜炎の治療経過
2019年1月:他院で陽性→治療(ビブラマイシンで治らずシプロキサン+フラジールで治癒)
2019年3月:低刺激採卵+新鮮初期胚移植(ノーオプション)で妊娠→息子を出産
2022年11月:リプロ東京で陽性(++15個/20HPF)→シプロキサン+フラジールで治癒
2023年5月:リプロ東京で陰性
2023年8月:移植後陰性判定だったため、シプロキサン+フラジールを予防投与(再検査せず)
2024年1月:リプロ東京で陽性(++18個/20HPF)→アジスロマイシンとアベロックス処方、現在服用中

現状残っている胚は下記です。追加の採卵はもう考えていません。
11G3(初期胚凍結)ICSI
8G2→4AB(胚盤胞)ICSI
8G2→4BB (胚盤胞)ICSI
8G3→4AB(胚盤胞)IVF

①素人考えで大変恐縮です。慢性子宮内膜炎がいつ再発したのかがわからないため、もしこうだったならという仮定のお話になってしまいますが、もし8月の移植の時にすでに再発していて、シプロキサンとフラジールが効いていなかったならば、8月、10月、12月の移植後陰性の原因が慢性子宮内膜炎だった可能性が高いのではないかという思いがどうしても拭えません。もったいないことをしたという後悔と同時に、2個ではなくまた1個移植を試す価値はあるのではないかという気持ちが出始めました。今回の慢性子宮内膜炎再発の事実を踏まえても、松林先生は2つ移植をすすめられますか。もしそうだとしたら根拠も踏まえてご回答いただけたらありがたいです。また、松林先生は、陰性が続いてるのは慢性子宮内膜炎が原因だと思われますか。
②考えても仕方ないのですが、慢性子宮内膜炎がなぜ再発したのかが不可解です。リプロ東京で初めて移植してから妊娠判定は出ていませんでしたが、8月の移植後の判定でHCGが1.9ではありますが出ていました。これは、妊娠反応はすこーしあったけどそのまま化学流産となったということも考えられますか。あと気になっているのは、去年8月頃新しく始めたこととしてプロバイオティクスの錠剤を膣挿入していることがあげられますが、慢性子宮内膜炎再発と関わっているということはないですよね。あとは、小さいけれども子宮筋腫があるとリプロ東京の初診で言われました。妊娠に影響ないということで放置しています。子宮筋腫と慢性子宮内膜炎に関連性はありますか。ポリープは関連性があると松林先生のブログで拝見しました。
③着床の窓検査について(ホルモン補充周期 vs. 自然排卵周期)
着床の窓の検査についてはホルモン補充周期で実施しましたが、自分の今の状況を見て、自然排卵周期でERPeakをやり直す価値はあると思いますか。自然排卵周期では再現性が乏しいでしょうか。院長先生からは、ホルモン補充周期と自然排卵周期はホルモン値の上がり方が異なるため、窓の検査結果も厳密に言えば異なるとお伺いしましたが、ある程度はカバーできるという他の先生のお声もあったので再検査していません。ホルモン補充周期でのERPeak検査の結果を自然排卵周期に当てはめて移植後妊娠に至った例はどのくらいありますか。また、ERPeak検査をホルモン補充周期と自然排卵周期両方やって結果が異なった方はいらっしゃいますか。
④慢性子宮内膜炎の抗生剤とラクトバチルス菌
慢性子宮内膜炎治療で抗生剤を服用すると、子宮内フローラに影響はありますか。ラクトフェリンとプロバイオティクスをせっせと服用しておりますが、抗生剤で死滅してしまうのならば抗生剤が終わってから服用再開した方がよいでしょうか。
⑥オプションをつけるかどうか
G-CSFやHCG子宮注入などのオプションはつけるべきでしょうか。どうしても第一子妊娠方法が必勝法であるという認識が頭から離れません。必勝法にこだわり続けるのも良くないのでしょうか。
⑦不育症検査結果について
今回プロテインC活性が148と異常に高かったのですが問題ないでしょうか。低くなければOKとのことでしたが念の為お伺いです。
⑧移植方法と胚選択について
以上の経過等を踏まえて、松林先生ご提案の移植方法と胚選択を(胚1個or2個、ホルモン補充or自然排卵、オプション追加の是非も含めて)ご教示いただきたいです。

 

A 

①慢性子宮内膜炎がいつ再発したのかは不明ですが、2023年6月〜12月の間であることになります。陰性確認後に最短で陽性になったのは(私の知る限りでは)、流産後で4ヶ月、妊娠なしで6ヶ月です。2023年8月の時点で再発していたとは到底考えられませんが、絶対ないとは言えません。
②慢性子宮内膜炎の発症機序は不明ですので、初発の場合も再発の場合も理由は分かりません。2023年8月の移植でHCGが1.9は化学流産と考えることもできます。プロバイオティクス錠剤挿入と慢性子宮内膜炎再発の関連はないでしょう。また、2023年7月に子宮鏡検査を行い子宮内腔には全く異常がありませんので、子宮筋腫の影響はありません。もちろん、子宮内膜ポリープもありませんでした。
③着床の窓の検査は、厳密にはホルモン補充周期と自然排卵周期でERPeakでそれぞれ実施するのが理想ですが、プラスにズレているのかマイナスにズレているのかは同じと考えます。ホルモン補充周期でのERPeak検査の結果を自然排卵周期に当てはめて移植後妊娠に至った例については集計していませんが大勢おられます。ERPeak検査をホルモン補充周期と自然排卵周期の両方で行って結果が異なった方はおられますが、そうそう頻繁には実施しませんので、1年程度間があいています。この場合、単に年月が経ったために変化が生じている可能性があります。
④慢性子宮内膜炎に限らず、抗生剤を服用すると子宮や腟フローラへの影響はあり得ますが、その後ラクトフェリンとプロバイオティクスを服用すれば改善されます。したがって、抗生剤の服用を終了してからのラクトフェリンとプロバイオティクスの服用が良いでしょう。
⑥⑧第一子妊娠方法(低刺激新鮮胚移植)が必勝法ですから、慢性子宮内膜炎を治した直後に、今一度低刺激新鮮胚1個移植をやってみても良いかもしれません。それが陰性だった場合には、自然排卵周期でERPeak検査を行ってから、自然周期で4AB(IVF)1個移植をします。さらに陰性なら、G-CSFやHCG子宮注入などのオプション併用で2個移植を提案します。
⑦プロテインC活性が高いのは問題ありません。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。