本論文は、男性のB型肝炎ウイルス(HBV)感染が精子や胚発生に影響するか否かを検討したものです。
Hum Reprod 2024; 39: 43(中国)doi: 10.1093/humrep/dead235
要約:2019〜2021年に初回採卵を実施する1,581組の不妊夫婦(24~40歳)を対象に、B型肝炎抗原陽性(HBsAg)男性469名と陰性男性1,112名に分け、精子や胚発生に及ぼす影響を後方視的に検討するとともに、ハムスター卵子を用いた体外受精、ヒト胚性幹細胞(hESC)を用いたHBVタンパクの影響も併せて検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
HBsAg陽性群 対照群 P値
469名 1112名
精子濃度 4800万/mL < 5600万万/mL 0.002
総精子数 16615万 < 19350万 0.001
正常形態精子 3.5% < 4.0% 0.002
培養成績および妊娠成績は概ね有意差を認めませんでしたが、全症例および顕微授精の正常受精率(2PN率)においてのみHBsAg陽性群では対照群より有意に低くなっていました 。また、HBVタンパクはヒト精子のMMPを減少させ、ハムスター卵の体外受精における2細胞率を有意に減少させました。さらに、HBVがhESCのMMP抑制とDNA損傷を引き起こすことを確認しました。
解説:世界中で約20億人がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染しており、3~4億人は慢性感染です。中国では1億2千万人がHBVに感染しており、総人口の9%を占めています。B型肝炎の感染経路には、血液感染、垂直感染(母子感染、精子感染)、粘膜損傷、性感染の4つがあります。精子または卵子はHBVを有するため、人工授精または体外受精中の水平感染やまたは垂直感染のリスクがあります。本論文の研究チームは、B型肝炎患者の精子の21%にHBVが存在すること、B型肝炎患者の精子染色体異常率が14.8%であること、精子の活性酸素を増加させることを報告しました(対照群4.3%)。しかし、これまでHBV感染がヒト胚に及ぼす影響は明らかにされていませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、男性のHBV感染が精液所見を有意に低下させ、初期胚発生に悪影響をもたらす可能性を示唆しています。したがって、ART治療の前のHBV検査は重要であり、HBV陽性男性患者の精液洗浄をしっかり行うことが肝要であるとしています。
下記の記事を参照してください。
2019.8.19「B型肝炎保因者の妊娠成績」
2018.10.21「☆C型肝炎ウイルス感染男性の妊孕性への影響」
2015.1.11「B型肝炎と男性不妊の関係」