AZFc微小欠失で精子を認める場合の精液所見の経時的変化 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、AZFc微小欠失で精子を認める場合の精液所見の経時的変化を検討したものです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 117(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.09.005

要約:1996〜2022年AZFc微小欠失を確認した男性163名を対象に、年齢、ベースラインのホルモン値(FSH、総テストステロン レベル)および精巣体積を測定し、精液所見を追跡調査しました。50名 (31%) が少なくとも2回以上の精液検査を実施しており、初回精液検査時の平均年齢は33.7歳で、追跡調査期間の中央値は305日でした。19名(38%)は無精子症のままであり(全ての精液検査で無精子)、12名(24%)は断続的無精子症(少なくとも1回精子あり+少なくとも1回無精子)、19名(38%)は非無精子症(全ての精液検査で精子あり)でした。非無精子症の男性は、最初の精液検査の年齢が有意に高くなっていました。しかし、ホルモン値および精巣体積に有意差はありませんでした。精液パラメータの経時的変化を評価するために、少なくとも1回精子を認めた31名の最初と最後の精液検査を比較したところ、精子濃度68%、総精子数61%、総運動精子数55%がプラスの変化を示しました。しかし、精液所見に経時的に有意な変化はありませんでした。年齢を層別化した二次解析および追跡調査期間を1年未満、1~5年、6年以上で層別化した二次解析を行いましたが、いずれも精液所見に統計学的な有意差を認めませんでした。

 

解説:AZFc微小欠失の男性は、精子産生力が極めて低いため、成人早期(20〜30歳)に妊孕性温存を検討する必要があると報告されています。しかし、同じ患者を長期にわたって追跡調査した大規模な研究は存在しないため、個々の男性における精液所見の経時的変化は不明でした。また、AZFc欠失男性わずか4名の症例報告では、経時的な変化はみられませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた31名での検討であり、AZFc微小欠失で精子を認める場合の精液所見に経時的変化はないことを示しています。したがって、AZFc欠失男性で精子を認める場合には、外科的介入(TESE)をする必要はなく、射出精子の凍結保存が推奨されます。

 

下記の記事を参照してください。

2013.6.14「☆☆AZF遺伝子微小欠失