複数のパートナーと単一のパートナーの女性の妊娠について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、複数のパートナーと単一のパートナーの女性の妊娠について比較した、風変わりな研究です。

 

Hum Reprod 2023; 38: 2499(ブラジル)doi: 10.1093/humrep/dead208

要約:2004年に生まれたブラジル「ペロタス(人口34万人)」出生コホートに参加した母親のうち、初めての妊娠を対象に、出産時、生後2年、6年、11年の追跡調査に参加した1215名の母親に対して、社会、健康、避妊などのアンケート調査を実施しました(縦断研究)。複数のパートナーの存在の有無は、次のような質問を元に判断しました。

 

Q1 夫またはパートナーと一緒に暮らしていますか?→「はい」ならQ2へ、「いいえ」なら質問終了

Q2 彼は2004年出生コーホートの子供の実の父親ですか?

 Q1「はい」+Q2「いいえ」→複数のパートナーと行動あり

 Q1「はい」+Q2「はい」→単一のパートナーとの行動

 全ての時期のQ1に「いいえ」→単一のパートナーの行動

Q3 6年と11年の調査では、2004年出生コーホートの子供の誕生後に生まれた子供は同じ父親ですか?

 いずれかの時期で「いいえ」→複数のパートナーで妊孕性あり

 全て「はい」→単一のパートナーで妊孕性あり

 *複数のパートナーでの妊孕性分析では、少なくとも2人の子供を持つ女性のみを対象としました

 

結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

       単一のパートナーの女性と比較したオッズ比(95%信頼区間)

     複数のパートナーがいる女性   複数のパートナーで妊孕性がある女性

妊娠数    1.16(1.08〜1.25)         1.23(1.11-1.37)

出生児数   1.11(1.03〜1.19)         1.20(1.08-1.33)

 

     少なくとも2人の子供を持つ女性で望まない妊娠を経験した割合    P値

学校教育年数  0〜4年   5〜8年  9〜11年  12年以上      

        29.31%  39.93%  36.70%  21.79%        0.020

家庭の年収   下位1/5  下位2/5   中位3/5  上位2/5  上位1/5   NS   

        34.72%  39.84%  36.76%  35.67%  30.83%  

初回出産年齢  13〜20  21〜25   26〜30  31歳以上      

        38.95%  34.45%  30.53%  24.44%       0.020

複数のパートナー     いない    いる  

             36.17%   34.08%              NS

複数のパートナーで妊孕性  ない    ある

             36.26%   33.16%              NS

NS=有意差なし

 

解説:世界中で婚外出産が増加するにつれ、家族のカタチは過去40年間で劇的に変化しました。ラテンアメリカでは、同棲している未婚女性の出産率は1970年の17%から2000年の35%に増加し、パートナーのいない女性または独身女性の出産率は7%から15%に増加しました。また、複数のパートナーとの間に子供を産む割合の増加は、家族構成に何らかの影響を及ぼします。米国では、41~49歳の女性の19%に複数のパートナーの子供がいます。本論文は、複数のパートナーと単一のパートナーの女性の妊娠について比較したものであり、複数のパートナーがいる女性は、単一のパートナーの女性よりも頻繁に妊娠し、より多くの子供を産んでいることを示しています。 複数のパートナーがいる女性は望まない妊娠が少なく、単一のパートナーの女性と比較して、偶然ではなく出産する目的で妊娠していることを示唆します。複数のパートナーがいる女性は、単一のパートナーの女性よりも、意図せぬ初産で若くして母親になり、その後結果的に婚外出産になることが多いようです。また、高学歴の女性では、望まない妊娠の経験が有意に少なくなっていました。私生活に踏み込んだこのような研究はなかなか難しいのですが、上手な質問の設定によりクリアしています。興味深い研究成果を賞賛したいと思います。