本論文は、低グレード胚でも赤ちゃんには問題がないことを示しています。
Hum Reprod 2023; 38: 2391(オーストラリア、ニュージーランド、中国)doi: 10.1093/humrep/dead212
要約:2009〜2020年にオーストラリア、中国、ニュージーランドの14の施設で行った、10,018名、10,964周期の単一胚盤胞移植を対象に、後方視的研究を実施しました。なお、良好胚4,386個(AB、AB、BA胚)、中グレード胚3,735個(BB胚)、低グレード胚2,843個(Cを1つ含む胚)、最低グレード胚(CC胚)としました。出産率はそれぞれ、44.4%、38.6%、30.2%、13.7%でした。ロジスティック回帰分析により、有意差がみられたのは、良好胚vs.低グレード胚(オッズ比0.48)、良好胚vs.最低グレード胚(オッズ比0.30)でした。単胎出産4,132名の周産期データは下記です(交絡因子補正後に有意差の見られた項目はありませんでした)。
良好胚 中グレード胚 低グレード胚
早産率(37週未満) 6.4% 9.1% 8.1%
極低出生体重児(<1500g) 0.9% 0.9% 0.6%
低出生体重児(1500~2500g) 4.6% 5.3% 4.6%
高出生体重児(>4500g) 1.6% 1.4% 1.9%
在胎不当過小児 6.9% 3.9% 3.2%
在胎不当過大児 17.5% 23.1% 26.9%
解説:単一胚移植は多胎妊娠と周産期死亡率を低下させるため、世界中で増えています。妊娠までの時間を最短にするために移植に最適な胚を選択することが重要になります。胚盤胞の形態学評価は、胎児になる細胞(ICM)と胎盤になる細胞(TE)の密度をもとにしたGardner分類が広く用いられています。良好胚から移植するため、低グレード胚の妊娠転帰についてはデータが不足しています。欧州生殖医学会(ESHRE)では低グレード胚の廃棄を推奨していませんが、一部の施設では、低グレード胚を凍結しなかったり廃棄したりしています。しかし、低グレード胚でも健常児の出産につながる可能性があり、低グレード胚移植を含めることで採卵ごとの累積出生数が増えるのは間違いありません。本論文は、このような背景の元に行われた多施設共同研究であり、出産率は(グレード低下とともに減少しますが)Cを1つ含む胚で30%、CC胚で14%であり、生まれた赤ちゃんは低グレード胚でも全く問題がないことを示しています。