2019年欧州でのART成績 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、2019年の欧州生殖医学会(ESHRE)におけるART治療(体外受精、顕微授精)成績を紹介してます。

 

Hum Reprod 2023; 38: 2321(ESHRE)doi: 10.1093/humrep/dead197

要約:2019年1月1日〜12月31日に実施された、欧州40か国1,487施設、総人口約3億人に対して、合計1,077,813周期(前年は1,007,598周期)の不妊治療のデータを集計しました。内訳は、体外受精160,782周期、顕微授精427,980周期、凍結胚移植335,744周期、PGT 64,089周期、卵子提供82,373周期、IVM 546周期です。人工授精は夫精子147,711周期、ドナー精子51,651周期が実施され、18カ国で思春期前後の妊孕性温存24,139件が実施されました。

 

出生児数は203,665名(前年は215,614名)でした。前年と比べ体外受精の臨床妊娠率は、採卵当たりでわずかに減少(25.5%→21.8%)しましたが、移植当たりでは同等(34.1%→34.6%)でした。同様に顕微授精では、採卵当たりでわずかに減少(22.5% →20.2%)しましたが、移植当たりでは同等(32.1%→33.5%)でした。全胚凍結を除いた採卵当たりの臨床妊娠率は、体外受精でも(28.8%→28.5%)、顕微授精でも(27.3%→26.2%)わずかに減少しました。凍結融解胚移植あたりの臨床妊娠率は、自己卵子を用いた場合も(33.4%→35.1%)、提供卵子を用いた場合も(41.8%→43.0%)増加しました。

 

ART治療全体では、移植胚の個数が年々減少しており、全体の55.4%で1個移植、39.9%で2個移植、2.6%で3個移植、0.2%で4個移植されています(前年はそれぞれ、50.7%、45.1%、3.9%、0.3%)。そのため、双子および三つ子の出産率は11.9%と0.3%でした(前年はそれぞれ、12.4%と0.3%)。また、人工授精後の出産率は、夫精子で8.7%(前年は8.8%)、ドナー精子で12.1%(前年は12.6%)と同等でした。妊孕性温存のうち、精子凍結は11,592件(前年10,503件)、卵子凍結はは10,784件(前年は9,123件)実施されました。

 

解説:どの国でも、ART治療の統計を報告しています。本論文は、2019年の欧州生殖医学会(ESHRE)40カ国のART成績を紹介してます。欧州でも単一胚移植が進んできました(日本が最も早く単一胚移植へ舵を切りました)。これに伴い、多胎妊娠の低下が顕著にみられています。