Q&A3913 正常胚2回陰性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 43歳4ヶ月、リプロダクションクリニック東京通院中

やっと出来た正常胚2つを、昨年8月と9月に移植しましたが、2つとも着床しませんでした。11月に、他院で凍結していた一番若い時の初期胚を移植しましたが、着床したものの胎嚢が見えず、化学流産しました。途方に暮れ、次の方針をどうするか非常に悩んでおります。

1つ目の正常胚が陰性だった際に、医師にまだやれることはないかと質問したところ、医師からは「できる検査はやっており、検査の限界」と言われたため、2つ目も同じ方法で移植することになりましたが、陰性でした。
2つ目の妊娠判定の際、1つ目の時とは別の医師に診察して頂きましたが、移植後2〜3日後に腹痛はなかったかと尋ねられて初めて、軽度の生理痛のような症状があったことを申告したら、子宮収縮があったのかもしれないとのことで、次回以降のために、ダクチル3Tを処方されました。当時、この腹痛は自分でもそれが異常だと分からなかったので、医師から尋ねられるまでわからず、1つ目に陰性がわかった時には自ら申告することができませんでした。2つ目の移植前に対策が取れなかったことがとても悔やまれます。

直近で今後の方針を相談した医師は、PGT-Aした正常胚が着床しなかった原因が卵因子だとしたら、検査のために採取したことによる欠損が原因で着床しなかったことも否定はできないので、採卵方向であれば、「これまでの成績から見ると、年齢的に正常胚獲得率は10分の1ほどなので、胚盤胞が10個できるまで貯卵し、PGT-Aを施さずに複数個移植」、あるいは移植方向であれば「今ある凍結胚を初期胚と胚盤胞の二段階移植」の二つを提案されました。

精一杯の人事は尽くしたいと思っておりますが、採卵からPGT-Aまで含めると1回でもかなり高額になり、正直金銭的に限界を感じつつあるのと、PGT-Aの胚へのダメージが原因だとしたら二の足を踏んでしまうのもあります。どういう方針で進んでいくのがベストなのか、他に対策できることはないか、分からなくなってしまっているので、お力添えをいただけましたら幸いです。

●チラーヂン75mg、ビタミンD、ラクトフェリン、葉酸、パキシル、加味帰脾湯 継続中
●BCE:陰性(2023/05/09)→ ヘパリン:予防的に(2023/11〜)
●子宮鏡:異常なし(2023/06/08)
●子宮収縮:全く動きなし(2021/11/23)→ 最終方針:ダクチル3T:予防的に(2023/11~)
●免疫検査:未 → ピシバニール:予防的に(2023/11~)
●染色体検査:夫婦ともに異常なし

ERPeak:着床の窓 -1(2021年11月23日)
2021年12月:4BB移植(Day5、2021年7月凍結、PGT-A未実施)→ 妊娠判定陽性→心拍確認後妊娠9週で流産
 G-CSF子宮、アシステッドハッチング、着床の窓 -1、プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、プレドニン、ルトラール、エストラーナ

2022年3月 胚融解PGT-A実施(採卵2021年7〜9月):正常4BB(Day7)、異常6AB、3CB
2022年4月 ANT法(CC50+フェリング+フジ)、ZyMot-cIVF
 採卵4個 → 受精3個 → 胚盤胞1個→PGT-A 異常3BB(Day5)
2022年5月 ANT法(CC50+フェリング+フジ)、ZyMot-cIVF
 採卵13個 → 受精9個 → 胚盤胞4個→PGT-A 異常5AC、5BB、5BB、4BC
2022年6月 ANT法(CC50+フェリング+フジ)、ZyMot-cIVF
 採卵13個 → 受精9個 → 胚盤胞3個→PGT-A 正常6AB(Day6)、異常3BB、5BC
2022年7月 ANT法(CC50+フェリング+フジ)、ZyMot-cIVF
 採卵8個 → 受精6個 → 胚盤胞3個→PGT-A 異常3BB、6AB、5BC
2022年10月 うつ病診断 → 以降半年強の間、不妊治療を中断
2023年6月 ERPeak:着床の窓+1
 プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、プレドニン、ルトラール
2023年8月:6AB移植(Day6、正常胚)→ 妊娠判定陰性
 G-CSF子宮、アシステッドハッチング、着床の窓+1、プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、プレドニン、ルトラール、エストラーナ
2023年9月:4BB移植(Day7、正常胚)→ 妊娠判定陰性
 G-CSF子宮、アシステッドハッチング、着床の窓+1、プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、プレドニン、ルトラール、エストラーナ 
2023年11月:他院で7G3移植(Day3、2020年4月採卵)→ 妊娠判定陽性→ 胎嚢確認できず(5〜6週)→ 出血
 ヒアルロン酸、アシステッドハッチング、着床の窓+1、移植当日にhCG筋注、プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、ルトラール、エストラーナ、ピシバニール、プレドニンを妊娠判定まで継続、ダクチル3T、ヘパリン皮下注(予防的に)、プロバイオテクス膣内挿入

現在の凍結胚は下記です(全てPGT-A未実施)
2021年7月:5G3(Day3)、4BC、3BC(Day6)
2021年8月:4CC、5BC(Day6)
2021年9月:4BC(Day5)

 

A PGT正常胚移植で陰性の場合に、皆さん大変落ち込みます。「正常」という期待感が大きいからですが、正常胚の出産率はおよそ50%ですから2回移植して1人出産するという確率であり、皆さんが思っておられるよりも実際は上手くいきません。もし、PGT未実施胚で陰性続きなら、原因不明着床障害であると考えますが、PGT未実施胚では2回着床していますので、PGT実施(biopsy)による胚のダメージによるものとしか考えにくいと私は思います。したがって、妊娠判定が陽性だった2回をベースに移植のプランを立てるのが良いでしょう。記載された情報からは、正常胚率は2/14ですので、現在凍結中の胚6個の中に1個正常があるといった確率です。私なら、3個ずつに分けて、次の2つの方法を1回ずつ実施してみます(胚の組み合わせは、例えば、5G3+4BC+3BC、4CC+5BC+4BCなど)。

①G-CSF子宮、アシステッドハッチング、着床の窓+1、プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、プレドニン、ルトラール、エストラーナ、プロバイオテクス膣内挿入

②ヒアルロン酸、アシステッドハッチング、着床の窓+1、プレマリン 、ユベラ、バイアスピリン、ウトロゲスタン、ルトラール、エストラーナ、プロバイオテクス膣内挿入、ピシバニール、プレドニンを妊娠判定まで継続

*なお、ダクチル3Tとヘパリン皮下注は①②ともに追加してもしなくても良いと思います(子宮収縮検査では全く動きがありませんでしたので、移植後2〜3日後の腹痛は子宮収縮ではなく異物排除の反応ではないかと思います)。

 

採卵する場合は(胚盤胞到達率が低く、グレードも低めのため)胚盤胞を目指さず(PGTもせず)、全て初期胚で凍結をお勧めします。これは、初期胚と胚盤胞の正常率は同じであるとの論文があるためです(2022.4.10「☆胚盤胞にならないのは染色体異常のせい?」の記事を参照)。初期胚移植個数は1回に5個程度が良いでしょう。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。