ホルモン補充周期の最大E2値は300~500が良い!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ホルモン補充周期の最大E2値は300~500 pg/mLが良いことを示しています。

 

Fertil Steril 2023; 120: 1220(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.953

Fertil Steril 2023; 120: 1174(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.10.018

要約:2016〜2019年に、一つの大学病院で、ホルモン補充周期によるPGT正常胚移植(1個)を実施した750周期を対象に、最大E2値を3群に分け(E2 <300、300~500、500< pg/mL)、妊娠成績を後方視的に検討しました。なお、子宮内膜<7mmの場合を除外しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

         グループA      グループB     グループC

最大E2(pg/mL)  <300       300~500      500<       P値

最大子宮内膜厚   9.8 mm       9.8 mm      9.6 mm      NS

最大E2値 平均  253 pg/mL  <  402 pg/mL  <  858 pg/mL   <0.001

移植時E2値 平均 128 pg/mL  <  207 pg/mL  <  352 pg/mL    <0.001

出産率     42.5%(17/40)< 63.4%(118/186)> 50.2%(238/474) <0.001

着床率     52.5%(21/40)< 75.3%(140/186)> 70.0%(289/474) <0.001

流産率     10.0%(4/40)   9.1%(17/186)    9.5%(45/474)  NS

NS=有意差なし

 

解説:近年、凍結保存技術の進歩により凍結胚移植が増加しています。2019年の米国の胚移植の77%が凍結胚移植でした。ホルモン補充周期で行われることが多いですが、ホルモン補充周期移植での、理想的なE2値については明らかにされていません。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、ホルモン補充周期の最大E2値は300~500 pg/mLが良いことを示しています。本論文は最大E2値での妊娠成績の検討であり、移植時のE2値での妊娠成績の検討はしていませんので、ご注意ください。もともと、この病院では、目標E2値を300~500 pg/mLに設定していたため、本論文の3群の分析を行ったとのことです。

 

コメントでは、正常胚が着床しないと患者さんも医療従事者も落ち込みますが、真の着床障害は5%未満であり実は極めて少数派であることを示した報告があります(2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?」でご紹介)。ホルモン補充周期では、黄体ホルモン(P4)ばかり注目していますが、エストラジオール(E2)に注目しても良いのではないかと考え、本論文の検討が行われました。しかし、本論文は後方視的検討であるため、単に目標最大E2値を300~500 pg/mLに設定するだけで良いのかについては更なる検討が必要です。本研究は洞察力に富んでいますが、E2の役割について、答えよりも多くの疑問を生み出す可能性があるとしています。