本論文は、卵巣予備能低下と流産の関連を調べたものです。
Hum Reprod 2023; 38: 2247(中国)doi: 10.1093/humrep/dead180
要約:不妊治療施設の17,786周期の臨床データ、英国バイオバンクの35,316人の女性データと個人レベルの遺伝子型データを用いて、卵巣予備能低下と流産の関連を解析しました。まず、臨床データを用いて、卵巣予備能と流産リスクの関連を分析しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
卵巣予備能低下群 卵巣予備能正常群 修正オッズ比(95%信頼区間)
AMH<1.1 AMH≧1.1
流産率 22% 11% 1.57倍(1.29〜1.89)
AFC<5 AFC≧5
流産率 23% 12% 1.62倍(1.30〜2.00)
FSH≧10 FSH<10
流産率 19% 12% 1.39倍(1.15〜1.67)
次に、英国バイオバンクデータを用いて流産歴と早発閉経の関連を分析しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
流産歴 早発閉経のリスク 修正オッズ比(95%信頼区間)
0回 12% 対照群
1回 12% 1.03(0.95~1.11)
2回 13% 1.09(0.97~1.22)
3回以上 15% 1.30(1.13~1.49)
最後に、英国バイオバンクデータの個人レベルの遺伝子型データを用いて、流産や閉経に関連する特定の多面発現遺伝子を分析しました。流産と閉経の両方に関連する158の遺伝子を特定し、それらが抗原提示や自己免疫経路に関与することが明らかになりました。
解説:不妊治療中の女性の10%で卵巣予備能低下が認めら、流産は全妊娠の8~15%で認められます。卵巣予備能低下が流産リスク増加と関連しているか否かについては賛否両論があり結論は得られていませんでした。本論文はこのような背景のもとに行われた研究であり、大規模な臨床データと集団コホートデータともに、卵巣予備能低下あるいは早発閉経と流産との関連を示しています。 また、大規模なゲノム多面発現解析により、流産や閉経に関連する特定の遺伝子構造を明らかにしています。しかし、英国バイオバンクデータは94.6%が白人であるため、白人以外の人種での検討が必要です。