☆妊娠中の抗生剤服用で胎盤発生が妨害される!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、母体腸内マイクロバイオームと胎盤の発生をマウスで検討したものです。

 

Sci Adv 2023; 9: eadk1887(米国)doi: 10.1126/sciadv.adk1887. Epub 2023 Oct 6

要約:腸内細菌叢を枯渇させた無菌マウス(GF)抗生物質投与マウス(ABX)では、胎盤の重量、体積、血管分布が有意に減少し、胎児体重も減少しました。また、胎盤迷路の体積と組織密度も有意に減少しました。これらの結果は、胎児〜胎盤の血管系の発達には母体の腸内細菌叢が必要であることを明らかにしています。母体の腸内細菌叢代謝物の変化がこの現象に関連すると考え、胎児血清メタボロームプロファイリングを実行したところ、GF群およびABX群では対照群とは異なるクラスターを形成していました。ランダムフォレスト分析により、母体の腸内細菌叢の状態を反映する代謝物30個が同定されました。有意に減少した19種類の代謝物をGF群およびABX群に投与したところ、胎盤重量や胎児体重の減少を防ぐことはできませんでした。短鎖脂肪酸(SCFA)は細菌による炭水化物発酵によって生成され、細菌が欠損した母体では大幅に減少することが知られています。同定された代謝産物に加えSCFAを投与したところ、ABX群の胎盤重量が対照群と同等のレベルまで有意に改善し胎盤迷路の体積も有意に改善しました。しかし、腸内細菌叢が枯渇したGF群では、SCFA治療は奏功しませんでした。SCFAは直接的に血管新生を促進することが報告されており、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をSCFAで処理したところ、血管新生を有意に増加させることが明らかになりました。母体のタンパク質制限(栄養失調)は、胎盤の縮小や血管障害などの胎盤形成不全と関連することが報告されているように、母体のタンパク質制限は胎盤の重量と体積を減少させました。しかし、母体のタンパク質制限にSCFA治療を実施すると、胎盤重量や体積、胎盤迷路の体積および胎児胎盤血管新生を有意に増加させました。母体の栄養失調の条件下でも、SCFAが胎盤の成長と血管の発達を促進することを示唆しています。

 

解説:母親の腸内細菌叢が出生前期に始まる子孫の発育に顕著な影響を及ぼしていることが明らかになっています。しかし、母親の腸内細菌叢が妊娠中にどのように母親と胎児の健康状態に影響を与えるかについては不明です。母親と胎児の接点には血管網が発達した胎盤があり、胎児の発育を維持する栄養分とガスの母親と胎児の交換を担っています。本論文は、マウス胎盤の発達における母体の腸内細菌叢の影響を検討したものであり、母体の腸内細菌叢が胎盤の発育をサポートすることを示しています。本研究は、母体と微生物の共生の重要性をを明らかにしており、非常に興味深い研究です。妊娠中の抗生物質の投与は、必要最小限にしておくべきだと思います。