タイムラプス システムによるPREFERモデルのリスク分類は有効か | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、タイムラプス システム(TLI)によるPREFERモデルのリスク分類が有効であるかについて検討したものです。

 

Fertil Steril 2023; 120: 834(英国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.06.006

Fertil Steril 2023; 120: 811(スペイン)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.011

要約:2016〜2019年に英国の体外受精クリニック9施設で、PREFERに基づく新鮮単一胚移植を実施した3587件の妊娠成績を後方視的に調査した多施設コホート研究です(エンブリオスコープ使用)。なお、PGT周期は除外しました。交絡因子補正前の結果は下記の通り。

          PREFER'            PREFER-MK*

     高リスク 中リスク 低リスク   高リスク 中リスク 低リスク

流産率   22%   14%   12%    16%   14%   17%

出産率   34%   49%   53%    38%   49%   50%

'PREFER:形態学的評価+臨床パラメータに基づくモデル

*PREFER-MK:形態学的評価のみに基づくモデル

 

ロジスティック回帰分析による交絡因子補正後の結果は下記の通り(オッズ比:95%信頼区間で表示、有意差のみられた項目を赤字表示)。

                       

PREFER     高リスクvs.中リスク  高リスクvs.低リスク   

流産率      0.62:0.45〜0.85   0.51:0.36〜0.72

出産率      1.84:1.54〜2.19   2.16:1.79〜2.62

 

PREFER-MK  高リスクvs.中リスク  高リスクvs.低リスク   

流産率      0.87:0.63〜1.63   1.07:0.79〜1.46

出産率      1.52:1.29〜1.80   1.75:1.38〜2.23

 

年齢のみ     高リスクvs.中リスク  高リスクvs.低リスク   

流産率      0.47:0.34〜0.66   0.48:0.33〜0.66

出産率      1.84:1.54〜2.22   1.95:1.65~2.25 

 

解説:タイムラプス システム(TLI)から得られる形態学的(MK)データを人工知能(AI)で分析する手法が近年多数報告されていますが、各社異なる評価を行なっているため一定の結論は得られていません。さらに、PGTとの比較もなされていますが、こちらも結論は得られていません。2019年のコクランレビューでは、TLIによる出産率改善効果はありませんでした(流産率低下効果は不確定)。PREFERは8,147個のPGT実施胚のTLI結果を用いて開発された染色体異常胚の予測モデルであり、「高リスク」「中リスク」「低リスク」の3つのカテゴリに分類します。本論文は、PREFERを用いて出産率と流産率のリスクを評価した多施設共同研究であり、PREFERモデルのリスク分類は、出産率増加と流産低下に有意に関連することを示してます。しかし、年齢因子単独でも出産率増加と流産低下が有意に関連するため、臨床パラメータを加えた評価(PREFER)を用いるとTLI評価のモデルが機能しなくなります。一方、年齢を加味しないPREFER-MKモデルでは、出産率増加のみが有意に改善し、流産率は改善しません。

 

コメントでは、AIとMKの統合により体外受精治療における胚の選択に変化が生じているのは事実ですが、現在のところ補完的なツールとみなすべきであるとしています。