不妊症の有無による閉経リスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、不妊症の有無による閉経リスクに関する前方視的検討です。

 

Hum Reprod 2023; 38: 1843(カナダ)doi: 10.1093/humrep/dead143

要約:2000〜2015年に、カナダ、アルバータ在住で英語を話す35〜69歳を対象に、慢性疾患と癌の発症を前方視的に検討する、アルバータの明日プロジェクト(ATP)を現在実施しています。約4年ごとに(2000~2022年)追跡調査した13,243名の女性を対象とし、自己申告アンケートにより、不妊症、 更年期障害、閉経状況などを調査しました。18.2%で不妊症の既往がありました。 不妊症既往がない場合と比較し不妊症既往がある場合の手術による閉経リスク(95%信頼区間)は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

35歳:3.13(1.95~5.02)

40歳:1.83(1.40~2.40)

45歳:1.13(0.87~1.46)

50歳:1.04(0.81~1.33)

55歳:1.27(0.85~1.92)

60歳:1.42(0.75~2.70)

65歳:1.48(0.66~3.31)

 

不妊症既往がある場合には、自然閉経と比較して手術による閉経を経験するオッズ比は1.40(1.18~1.66)と有意に高くなっていました。 しかし、不妊症既往の有無で、自然閉経の時期に違いはみられませんでした。

 

解説:閉経の時期は一般に45~58歳であり(北米では平均52歳)、女性の11~14%が45歳未満で閉経を経験しています(早発閉経)。およそ8割の女性は自然閉経となりますが、残りの2割は手術による閉経となります。不妊症は女性の12~25%が経験しており、後年に生殖器系癌、心血管疾患、脳卒中、糖尿病などのリスク増加との関連が示唆されています。 しかし、不妊症が閉経と関連しているかどうかについては明らかにされていません。本研究はこのような背景の基に行われた前方視的研究であり、不妊症既往がある場合には手術による閉経リスクが有意に増加するが、自然閉経の時期に違いはみられなかったことを示しています。ただし、個々の不妊症の原因と治療に関するデータが欠損しているため、詳細な検討はできていません。

 

下記の記事を参照してください。

2023.10.9「閉経時期と認知症の関係