早発卵巣不全(POI)の家系調査 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、早発卵巣不全(POI)の家系調査を実施した横断研究です。

 

Hum Reprod 2023; 38: 1991(米国)doi: 10.1093/humrep/dead168

要約:1995〜2021年に米国ユタ州の医療データベースを用いて早発卵巣不全(POI)と診断された女性393名と年齢が一致した対照群393名を対象とし、症例対照研究を行いました。少なくとも3世代の祖先について利用可能な家系図情報があることを条件としました。また、対照群は、出生地および5歳時の住居が一致したものと、お子さんの有無が一致したものを用いました。POIの211人(53.7%)、対照群の266人(67.7%)に少なくとも1人のお子さんがおられ、対照群と比べPOI群でお子さんの数は有意に少なくなっていました。しかし、最初の出産年齢と最後の出産年齢は両群間で有意差を認めませんでした。なお、24歳以下でPOIと診断された女性は、一人も過去に出産されていませんでした。ドナー卵子による妊娠を除くと、POI女性の7.1%がPOIの診断後にお子さんを出産しました(20〜34歳)。家族性POI患者28名を含め、POI女性の親族から生まれたお子さんの数と対照群のお子さんの数に有意差はありませんでした。

 

解説:早発卵巣不全(POI)は、卵子が少なくなった状態です。 しかし、POIの診断後に妊娠が存在することがあるので、POIは閉経ではありません。例えば、抗癌剤によるPOI以外では、POI診断後の妊娠率は1.5〜10%と報告されています。POIが家族性に出現するPOI家系があることを、本論文の著者のグループが報告しました(Fertil Steril 2023; 119: 128)。また、母親がPOIの場合に、お子さんがPOIになるオッズ比は6.02(95%信頼区間3.39~10.66)とされています(Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 1997; 74: 63)。本論文は、POIの母親から生まれたお子さんについての集団調査を世界で初めて実施したものであり、対照群と比べPOI群でお子さんの数は有意に少ないことを示しています。ただし、POI診断後に妊活していたかどうか、不妊治療実施の有無、避妊していたかどうかなどのデータが欠落しているため、これらの因子の関与については不明です。