☆不育症患者の周産期予後 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、不育症患者の周産期予後に関する後方視的検討です。

 

Fertil Steril 2023; 120: 626(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.028

Fertil Steril 2023; 120: 635(カナダ)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.06.031

要約:2014〜2021年に上海のひとつの三次産院で出産した初回出産の単胎妊娠108,792件を対象に、流産2回以上1994名(1.83%)、流産1回11,477人(10.55%)、流産歴のない95,321人(87.62%)の3群に分け、周産期予後に関する後方視的検討を行いました。検討した周産期予後項目は、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、前置胎盤、癒着胎盤、胎児仮死、帝王切開、分娩誘発、産後出血、早産、死産、新生児仮死、性別、先天性奇形、低出生体重児、新生児死亡です。流産歴のない妊婦と比べ、流産2回以上の経験がある妊婦で、交絡因子補正後に有意差がみられた項目は下記の通り

 

             オッズ比(95%信頼区間)

妊娠糖尿病          1.16(1.06〜1.26)

早産(<37w)        1.34(1.15〜1.54)

妊娠高血圧腎症(<37w)   1.58(1.03〜2.32)

前置胎盤           1.78(1.36〜2.28)

癒着胎盤           4.19(2.75〜6.13)

予定帝王切開         1.15(1.07〜1.22)

 

解説:流産の頻度は約15%です。流産2回以上の反復流産は約4%にみられますが、その後の周産期予後への影響については(小規模な研究しかないため)明らかではありません。本論文は、このような背景のもとに行われた後方視的検討であり、反復流産既往の女性は、流産が連続しているかどうかにかかわらず、胎盤機能障害(妊娠高血圧腎症、早産)、胎盤異常(前置胎盤、癒着胎盤)、妊娠糖尿病のリスクが高いことを示しています。つまり、反復流産女性の妊娠管理では、胎盤関連疾患の早期発見と適切な介入が必要であることを示しています。

 

コメントでは、反復流産とその後の周産期予後について調査した世界最大規模の研究であると本論文を賞賛していますが、流産の有無が自己申告によることが難点であるとしています。反復流産の原因によらず、反復流産自体が将来の周産期リスクが高い集団であり、着床プロセスの不備は異常な胎盤形成や胎盤機能障害をもたらす可能性があるとしています。