本論文は、卵巣予備能低下の母体では妊娠高血圧腎症や胎盤病変の発生頻度が高いことを示しています。
Fertil Steril 2023; 119: 794(カナダ、イスラエル)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.01.029
Fertil Steril 2023; 119: 802(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.03.002
要約:2009〜2017年に体外受精妊娠により単胎出産した方を対象に、卵巣予備能低下(DOR)とそうでない方に分け、母子合併症の頻度を後方視的に検討しました。なお、DOR群(110名)は胞状卵胞数(AFC)6個以下とし、AFC7個以上を対照群(772名)としました。2群間で有意差のみられた項目は下記の通り。
DOR群 対照群 P値 オッズ比(95%信頼区間)
平均年齢 36.3歳 > 35.3歳 0.02
AFC中央値 5個 < 17個 <0.001
男性因子 18.1% < 36.6% <0.001
排卵障害 0% < 14.5% <0.001
卵管因子 5.4% < 11.9% 0.04
子宮内膜症 8.1% > 3.6% 0.02
胚盤胞移植 64.5% < 76.3% 0.007
妊娠高血圧腎症 8.1% > 2.7% 0.003 3.05(1.33〜6.97)
周郭胎盤 6.3% < 14.5% 0.01 0.38(0.17〜0.84)
絨毛間血栓症 5.4% < 12.1% 0.01 0.38(0.16〜0.90)
胎児血管障害 3.6% > 0.6% 0.01
胎児血管灌流異常 4.5% > 1.1% 0.007 5.07(1.47〜17.43)
解説:婚姻年齢の高齢化に伴い、DORによるART治療の適応が増加しています。2018年の米国SART統計によると、DOR は第2位のART適応であり、全体の1/3の件数を占めていました。ART治療の患者では、妊娠高血圧腎症のリスクが増加することが知られています。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、卵巣予備能低下(DOR)では妊娠高血圧腎症や胎盤病変の発生頻度が有意に高いことを示しています。
コメントでは、本研究の優れた点として、詳細な胎盤の病理的検討を実施していること、単一の大規模不妊センターで実施されたためプロトコールが一定であること、胎盤の評価は1人の病理医によって行われたためバイアスが軽減されることを挙げ、一方で、ART治療でないDOR患者による検討がなされていないこと、DORの指標であるAMHを調べていないことを指摘しています。
下記の記事を参照してください。
2023.5.5「残留性有機汚染物質と卵巣予備能」
2023.2.23「☆DORあるいはPORは正常胚率とは無関係」
2022.4.23「卵巣予備能低下への対応」
2021.8.21「早発卵巣不全と非閉塞性無精子症に共通の遺伝子変異」
2021.1.21「DORの原因遺伝子」