☆採卵数は多ければ多いほどよい:全米データ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、採卵数は多ければ多いほどよいことを示した全米のデータです。

 

Fertil Steril 2023; 119: 762(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.01.001

Fertil Steril 2023; 119: 770(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.03.027

要約:2014〜2019年米国で自己卵によるART治療(体外受精、顕微授精)行った402,411周期を対象に、採卵数と累積および初回移植の出産率後方視的に検討しました(SART-CORSデータを使用)。採卵数と受精卵数、採卵数と胚盤胞数に強い正の相関がありました。累積出産率は採卵数が16~20個になるにつれて急速に増加し、その後も増加し続けました。 初回移植の出産率も採卵数が16~20個まで増加し、その後は横ばいになりますが低下しませんでした。採卵数11〜15個を基準とした結果は出産率は下記です(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

出産率     0〜5  6〜10  11〜15  16〜20  21〜25  26〜30  31〜35  36〜40  41〜

累積      0.30   0.66   1.0   1.26   1.47    1.63    1.74   1.98   2.00 

初回新鮮胚   0.59   0.85   1.0   1.01   1.04    1.06    0.88   0.83   0.91

初回凍結胚   0.60   0.84   1.0   1.08   1.23    1.23    1.22   1.47   1.33

初回凍結正常胚 0.92   0.95   1.0   1.10   1.13    1.14     1.11   1.24   1.24

 

解説:2000年以前、新鮮胚移植が全盛期だった頃には、20個以上の採卵数の場合に、生まれた赤ちゃんの早産や低体重児が有意に高くなることから「採卵数は5〜10個がいい、20個以上に卵子が増えると質が下がる」と考えられていました。しかし、2000年以降、世界的に全胚凍結の時代になった現在、全胚凍結の場合には刺激周期で採卵数が多い方が圧倒的に有利な状況であることが明らかにされています。本論文はその事実を示した全米データであり、卵巣刺激は採卵数を、安全な範囲で最大化すべきであることを示しています。

 

コメントでは、新鮮胚の場合のベストな採卵数は11〜30個であり、凍結胚では多ければ多いほど良いことを繰り返し述べています。PGTの時代では、基本は凍結胚になりますので、OHSSにならない範囲で最大数を採卵するのが良いとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2023.5.19「☆採卵数は多ければ多いほどよい:メタアナリシス

2020.8.23「☆卵子が増えると質が下がるのは本当ですか?