恵まれない地域に居住する肥満女性はAMHが低い!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、恵まれない地域に居住する肥満女性はAMHが低いことを示しています。

 

Fertil Steril 2023; 119: 653(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.026

Fertil Steril 2023; 119: 661(米国)コメント  doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.01.026

要約:2014〜2018年に、セントルイスの都市部に居住する20〜44歳の健康な女性193名を対象に、地理的剥奪指標(area deprivation index=ADI)により卵巣予備能(AMH、AFC)に違いがあるか否かについて横断研究を行いました。また、BMI値によるサブグループ解析を行いました。結果は下記の通り(有意差が見られた項目を赤字表示)。

 

      卵巣予備能  ADI下位1/4  ADI上位1/4  P値

              48名     145名   〜

BMI<25    AFC    36       26    NS*

 78名    AMH    3.8       3.0    NS*

BMI≧25    AFC    18   <   26    0.004

 114名    AMH    1.8   <   2.5   0.003

*NS=有意差なし

 

種々の交絡因子で補正後もなお、BMI≧25のAMH値はADI上位1/4と比べADI下位1/4で有意に低い結果でした。

 

解説:欧米社会では、貧困な状況に置かれた人々が多く住まう居住地に健康問題の多くが集中することが、健康の社会的格差の一端として問題視されてきました。これを計測するために、地区の社会経済状況の水準を指標化したものが地理的剥奪指標(area deprivation index=ADI)です。ADIが大きく、貧困の度合いが高いと見なされる地区ほど死亡率などの健康指標が悪いという関連が数多く報告されています。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、恵まれない地域(高ADI地域)に居住する肥満女性はAMHが低いことを示しています。しかし、恵まれない地域(高ADI地域)に居住する方でも標準体重の女性ではAMHとの関連は認められませんでした。

 

コメントでは、恵まれない地域(高ADI地域)に居住する方は、貧困、人種差別、犯罪などの社会経済学的理由により周産期予後の低下が報告されていますが、本論文は、恵まれない地域(高ADI地域)に居住する女性の卵巣予備能を調査した初めての研究であることを紹介しています。恵まれない地域の分類方法にはバイアスがかかりやすいことや高ADI地域の定義があいまいであることを指摘しつつも、卵巣予備能を調査した初めての報告であることを賞賛しています。しかし、一方で、恵まれない地域(高ADI地域)には、大気汚染、不十分な政策、医療アクセスの低下などの要因の関与もあり得るとしています。

 

日本と異なり、米国では都市部ほど貧困層が居住しています。私も米国留学中に田舎町のインディアナポリスの中心部で怖い目に合ったことがあります。