Q&A3584 初回採卵移植の結果で | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2022.8.1「☆Q&A3375 プロラクチンが高いのに投薬なしです」と2022.11.9「Q&A3475 タイミングでの刺激法は?」で回答いただきました。

今回、初めて採卵・顕微・移植をしました。通っているクリニックは最低限の検査しかしない方針でアドバイスも「患者自身が決めるべき」と突き放され全体的に雑な印象で、初めての高度不妊治療だったので後から多々疑問がわき、今回の治療内容について松林先生にアドバイスを頂けますと幸いです。

既往歴: 30歳過ぎた頃より月経中の排便痛(腸の引き攣り)が気絶寸前レベルになり、ダグラス窩の子宮内膜症を自覚し、36歳時に腹腔鏡手術を受けました。右卵巣2cmのチョコレート嚢胞には手を付けず、ダグラス窩の治療だけ希望しましたが、チョコレート嚢胞も手術の際に破れてしまったと言われました。数か月後にはチョコレート嚢胞はすぐ復活。ダグラス窩は子宮と腸と卵巣がべったり癒着、卵管・卵管采は巻き込まれていなかったとの事です

37歳、AMH 0.44
・CD138は0個で陰性、子宮鏡検査異常なし
・Th1/Th2以外の不育症の血液検査は一通り異常なし(35歳時、37歳時)
・凝固第12因子だけ、ギリ基準値以下50(35歳時)→基準値60以上に改善(37歳時)
・卵管造影検査は過去数年で2回とも異常なし、卵管水腫・閉塞・子宮筋腫なども指摘された事はなし
・プロラクチン、甲状腺も今は特に問題なし
・FSH 10.1〜16.5

 

採卵+移植:1回目
 今回の直前周期は体温が二層にならず24日周期で無排卵月経を迎えたまま卵巣刺激を開始しました。私は、数年間観測してきた中で無排卵だった事が数回しかなく、月経不順がある際は卵胞が育ち始めるのが遅くて、不正出血を経て排卵・高温期になるパターンが多いです。普段は27日周期くらいです。
今までDay3頃のAFCは多くて3個までしか見えず、今回無排卵月経2日目もAFC3個でした。
Day2 フォリルモン300単位、FSH 11.5、E2検出不可(10未満?)
Day3~5 フォリルモン300単位
Day6 フォリルモン300単位、のびおりが増え始める。
Day7 フォリルモン300単位、卵胞16mmと14.4mmの2つになる。排卵抑制のためレルミナ半錠。のびおり最多。
Day8 朝に排卵検査薬ほぼ陽性と出たため、クリニック受診し、卵胞は18mmと17mm。LH 6.2、E2=701.1、プロゲステロン 0.65。フォリルモン150単位、夜にオビドレルとブセレキュアでトリガー。
Day10 朝に採卵3個。夕方からルトラール1錠
Day11~ ルトラール朝・昼・夕1錠ずつ
Day12(ET0)基礎体温36.70℃高温期に入る。夕方に新鮮初期胚移植1個(day 2)
 普段の排卵は大体Day15、16頃で、高温期は10~12日程度です。今回、無排卵月経から採卵周期に入ったためか、当初はDay14、15頃に採卵予定だったのに採卵・移植が異常に早くなってしまいました。内膜の厚みは移植時も特に知らされず、移植に適した厚さだったのか不安です(普段は内膜が薄いと言われた事はありません)。採卵・受精結果は、翌々日移植に行って初めて知らされ、未熟卵1個(かなり小さかったので採卵を数日引き延ばしても成熟は難しかっただろうとの事)、1つは受精翌日に発育停止、1つはグレード2の4細胞との事。夫の通院が難しいため凍結精子で顕微授精を行いました。精子のほうは特に問題なし。新鮮初期胚移植の可能性も考えアンタゴニスト法でお願いし、2個採れたら初期胚2個移植、3個以上は胚盤胞まで培養と採卵日に希望を伝えました。移植日に結果を知らされ、そのまま議論の場もなく新鮮初期胚移植になりました。
 今回はET8からずっと茶黒おりものが続いており、ET10のフライングも陰性でした。判定日の結果ですが、陰性でした。尿検査のみでHCGすら測ってもらえませんでした。尿検査は家でもできるし、クリニックではHCGで化学流産だったかどうか診てもらえるものと思っていたので驚きました。たまたま育たない受精卵だったのかもしれませんが、治療の管理がズボラすぎて、そりゃ妊娠しないよという意味のない治療内容にお金が溶けていったのではないかと不信感が募っています。

①分割の日数ですが、3日目というのは採卵当日1日目で数え方は合っていますか。採卵から50時間後くらいの移植日に4分割と言われたのですが成長は遅いでしょうか。生き残った受精卵は2日目で4細胞と分かりました。発育停止した胚は変性との事です。
②未熟卵を除き成熟卵が2個からの培養スタートなら、なぜ初期胚培養にしてくれなかったのか疑問です。未熟卵が混ざっているか採卵当日に聞くのは難しいでしょうか。それと、移植日の来院時に移植するか、胚盤胞まで培養継続するか相談できたらと、後から思いました。このように治療方針を都度柔軟に相談して決めさせてもらうのは難しいでしょうか。移植日を決めていたらその日に移植しないといけないですか。
③移植時の明細でアシステッドハッチングされていた事を知りました。頼んだ覚えがなかったのですが、新鮮移植、初期胚でも基本的にするものですか。
④胚盤胞培養の場合、通っているクリニックは7日目まで培養できるとの事ですが、何日目まで培養が多いですか。どのような状態になったら凍結に進むなど目安はありますか。
⑤今回の治療内容を通して、見ておく検査数値、診察やお薬など不足ありましたらご教示頂けますでしょうか。私はこまめにホルモン数値や内膜・卵胞数値も知りたいのですが、通院先の先生は月経時の血液検査も基本不要といったスタンスなので、私から適宜あれこれ希望を伝えないといけません。
⑥通院先の先生は黄体ホルモン補充するから大丈夫と言ってましたが、移植時に適した内膜の厚みは最低どのくらいでしょうか。内膜厚みは移植時には測らないと言われました。ただし採卵時点で9mmで問題なかったとの事です。
⑦移植数時間後にトイレで赤いおりもの様の1cm程度の点が浮いていて、普段の経血みたいな感じでなく初めて見る感じだったので、赤ちゃんが流れ出てきたのでは!?と心配です。そこの先生は初期胚でも落ちる事はないと言っていましたが、着床もまだなのに、移植時も胚をそっと置くだけと聞いてますが、何故落ちないと言えるのでしょうか。貼り付けてるわけではないですよね。着床まで子宮内でどのように過ごしているのでしょうか。
⑧今後、松林先生はどのような刺激法がおすすめですか。また新鮮移植の可能性も考えアンタゴニスト法でお願いしそうです。凍結移植ならPPOS法も良いかなと思いますが、私の体質でロング法やショート法はどうでしょうか。また、今のクリニックではフォリルモンしか出されないのですが、私の場合フェリングとどちらが良いでしょうか。黄体補充のルトラールも適量でしょうか。通院先の先生には、次回はもう飲み薬だけでも良いと言われています。低刺激派のクリニックではなく、どちらかというと最初は高刺激でやってみる標準的なクリニックですが、そのように助言されました。今回AFCが3個見えたのは私にしては多いほうで、普段はDay3頃で2個とか1個しか見えない事が多いです。
⑨自費診療のため経済的に厳しく、初期胚2個の新鮮胚移植を第一目標に思っていましたが、確実性を高めるため胚盤胞凍結できるまで採卵を繰り返すか、初期胚凍結2個移植を繰り返すか、松林先生はどんな戦略をお勧めされますか。初期胚は新鮮・凍結ともに妊娠率がさほど変わらないと聞くので、初期胚か胚盤胞を目指すか悩みます。通院先の先生的にはもう胚盤胞を目指すより初期胚が良いとの事です。今回陰性だった要因は卵の質だろうと言われました。たまたま1回だけの結果で判断は難しいかもしれませんが、私は今回新鮮移植で陰性だったので、凍結初期胚のほうが良いのではないかと思うのですが、通院先の先生的には、今回は卵の質だったので、次もまた新鮮移植でも良いのではとの事です(経済面シビアな事を考慮しての提案だと思います)。松林先生はどう思われますか。新鮮移植でトライを繰り返すのはありでしょうか。
⑩松林先生のブログを読んで、私としてはクロミッド+HMG300連日でさせてもらえないか相談しようと思っていました。松林先生のブログで書かれている遅延スタート法はやってもらえないそうです。でも、クロミッド+HMG300の刺激で仮に見えてないAFCも上手く育った場合に、後半でレルミナ等で数日排卵抑制を粘れたら、遅延スタート法に近い結果が得られるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。もちろん毎回のAFCによると思いますが、私は今後基本的に飲み薬のみのほうが良いのでしょうか。

 

A 今回1回だけの治療で、将来を予測することは困難です。何回か治療を行って、その方の特徴(傾向)が掴めて初めて、その先の議論が可能になります。また、基礎体温をかなり気にされておられますが、採卵や移植をされている方では、基礎体温から得られる情報はほとんど有益ではありませんので、基礎体温の測定はお勧めしません。プラス思考でいければ良いのですが、マイナス思考になってしまうと結果も悪くなります。

 

①採卵当日を0日目で数えますので、移植したのは2日目のカウントになります。4細胞は丁度良い発育のスピードです。
②初期胚培養とは通常通りの培養で採卵後2〜3日目まで受精卵を培養することです(初期胚=分割胚)。今回の質問は採卵日の未熟卵を培養して成熟卵にすることを意味していると思います。リプロダクションクリニックでは採卵できた日に成熟卵がない場合にのみ、未熟卵を翌朝まで培養しています。一つでも成熟卵がある場合には未熟卵を培養することは行っていません。また、クリニックにもよりますが、治療方針(凍結/移植)を柔軟に相談して決めるのは通常難しいと思います。
③リプロダクションクリニックでは、原則として、凍結胚は全ての方に、新鮮胚は35歳以上の方に全例アシステッドハッチングをしています。
④胚盤胞培養は通常採卵後5〜6日間培養しますが、PGTの場合には脱出胚盤胞になるのにさらに+1日かかりますので、採卵後5〜7日間培養します。凍結時期の目安はクリニックによって大きく異なります。
⑤卵子の改善策として、25OHビタミンD、テストステロン、DHEASを採血し、不足分を補充することをお勧めします。男性は精子の改善策として、精子DNA損傷の程度を調べて、精子選別の方法を検討するのが良いでしょう。
⑥移植時に適した内膜の厚みは、7.0mmです。
⑦移植した胚が着床まで子宮内でどのように過ごしているのかはわかりませんが、上下の子宮内膜に挟まれた状態だと考えます。移植後数時間程度での出血は、膣内や子宮頚管の操作によるものと考えます。
⑧どのような刺激法が良いかは、様々な刺激を試してみて初めてわかります。したがって、何もせずに予測することはできません。
⑨どのような移植法が良いかは、様々な移植を試してみて初めてわかります。したがって、何もせずに予測することはできません。
⑩後半でのレルミナは遅延法にはなりません。遅延法はスタートする前に卵胞(AFC)を増やしてから刺激を開始する方法です。また、現在HMG製剤が世界的に不足しているため、HMG製剤300単位を連日使うことは(薬剤の準備ができないため)難しいと思います。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。