Q&A3397 フィブリノーゲンについて | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 42歳、リプロダクションクリニックでサポートをいただき初めて妊娠、現在妊娠21週。

プロテインS活性に変動あり、妊娠前、一番低値の検査値で48%。

妊娠18週で産院を転院することになったのですが、転院(初診)時のスクリーニング検査に血液凝固の項目がありました。
※ヘパリン使用継続中での結果
プロトロンビン時間(秒)(PTs)10.7秒
プロトロンビン時間(活性)(PT%)113.1%
プロトロンビン時間(国際標準比:PT-IN)0.94
プロトロンビン時間(比)(PT ratio)0.94
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)25.7秒
フィブリノゲン 452mg/dL

不安なのが、この検査結果がヘパリン+アスピリン治療中の値であることです。現在はヘパリン治療中ですが、通院中の産院からはヘパリンの処方が不可能で、これからヘパリン治療は終了になる予定です(他院から処方を受ける場合、ヘパリン使用を理由に分娩を断ることはしない、とのこと)。
※ちなみに、妊娠前(不育症検査)での結果は下記でした
プロトロンビン時間(秒) 11.8秒
活性化部分トロンボプラスチン 28.9秒

①フィブリノゲン(高値)と流産・死産の関係について教えてください。
②現在投与中のヘパリンを中止した場合、フィブリノゲンがさらに上昇する可能性はありますか。
③妊娠18週から妊娠後期に向けて、フィブリノゲンはさらに上昇するものでしょうか。
④妊娠中に分泌されるエストロゲン等は(フィードバックにより調整されることのない)いわば”外因性”のものでしょうか。外因性の少量のホルモン(メラトニンサプリメント2mg未満等)で排卵が止まるなど体調不良の経験があり、そういう外因性のホルモンに過敏な体質の場合、妊娠時のホルモン変動にも過剰に反応してしまう可能性はありますでしょうか。
⑤母体血栓症の危険性が出てくるフィブリノゲン値は、目安としてどのくらいでしょうか。
⑥血液凝固のスイッチが入らないようにするため、注意すべきことを教えてください。
⑦松林先生からのアドバイス、お気づきの点、何らかのヒント等をぜひいただきたいです。

 

A 妊娠中は血液凝固系の数値が大きく変動しますので、非妊娠時と妊娠中の直接の比較はできません。さらに、ヘパリン使用中の血液凝固系の数値の変化も当然あります。したがって、ここに記載されたデータから、危険度を察知する、あるいは予測することはできません。なお、妊娠中のフィブリノーゲンは非妊娠時の1.5倍になります(300〜600mg/dL)ので、正常です(産婦人科研修の必修知識より)。

 

①②③⑤不明です。
④妊娠中のエストロゲンは胎盤が産生しています。胎盤は体内のものなので内因性です。
⑦特別なアドバイスはありません。

 

参考までに、妊娠中の凝固線溶系因子の増減は下記のように、非常に複雑です。

増加:フィブリノーゲン、第VII因子、第VIII因子、第X因子、第II因子、第IX因子、第XII因子、プロテインC

減少:第XI因子、第XIII因子、第V因子、ATIII、プロテインS、ホモシステイン

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。