☆IgA腎症と妊娠 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

IgA腎症と妊娠に関して時々質問がありますので、最近の論文をご紹介します。

 

①Am J Nephrol 2016; 44: 187(中国)doi: 10.1159/000446354

要約:2015年までに発表されたIgA腎症と妊娠に関する4論文メタアナリシスを行いました。IgA腎症273名376妊娠IgA腎症で妊娠していない241名を比較しました。妊娠の有無によりIgA腎症の腎機能に有意な変化を認めませんでした。しかし、IgA腎症合併妊婦では、死産が12.2倍、早産が8.5倍、低体重児が9.5倍、妊娠高血圧症候群が7.3倍有意に高くなりました。

 

②J Clin Med 2018; 7: 212(フランス) doi: 10.3390/jcm7080212

要約:2017年までに発表されたIgA腎症と妊娠に関する14論文メタアナリシスを行いました。IgA腎症​​​​​​​581名729妊娠IgA腎症​​​​​​​で妊娠していない562名を比較しました。妊娠の有無によりIgA腎症の腎機能に有意な変化を認めませんでした。しかし、IgA腎症合併妊婦では、妊娠高血圧腎症が11.8倍、妊娠高血圧症候群が10.4倍、死産が13.2倍、早産が3.4倍、低体重児が2.4倍有意に高くなりました。

 

③J Nephrol 2021; 34: 1591(スエーデン) doi: 10.1007/s40620-021-00979-2

要約:1974〜2011年にスエーデンの疾患統計に登録されたIgA腎症​​​​​​​208名327妊娠IgA腎症でない622名1060妊娠を比較しました。IgA腎症合併妊婦では、妊娠高血圧腎症が4.3倍、早産が2.7倍、低体重児が1.8倍、帝王切開が1.7倍有意に高くなりました。

 

解説:IgA腎症は腎臓の糸球体にIgAが沈着することによって生じ、糸球体腎炎で最も頻度の高い疾患です。日本をはじめアジア太平洋地域に多くみられるため、遺伝的背景が想定されています。通常、検尿による蛋白尿や血尿によって発見されます。当初は予後良好な疾患と考えられていましたが、いまだ確立された治療法はなく、20年後には約40%が腎不全に至る予後不良な疾患であり、慢性腎臓病の最大の要因です。IgA腎症は、生殖年齢の女性に最も多くみられるため、妊娠との関連が示唆されていますが、この分野の研究は限定的です。論文①②はIgA腎症の方において、妊娠による腎症の悪化がないことを示しています。論文①②③ともにIgA腎症合併妊娠では、妊娠合併症が有意に増加することを示しています。なお、共通項は妊娠高血圧腎症、早産、低体重児です。