新鮮胚と凍結胚でのエピジェネテイクス変化の違い | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、新鮮胚移植と凍結胚移植と自然妊娠でのエピジェネテイクス変化の違いについての検討です。

 

Fertil Steril 2021; 116: 1468(フランス)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.014

Fertil Steril 2021; 116: 1481(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.10.002

要約:2013〜2019年に妊娠された方202名(新鮮胚移植66名、凍結胚移植52名、自然妊娠84名)を対象に、出産時の胎盤と臍帯血のDNAメチル化について前方視的に検討しました(day 2〜3の初期胚移植のみ)。対象とした遺伝子は、インプリンティング遺伝子3種類(H19/IGF2:Ig-DMR、KCNQ1O1:TSS-DMR、SNURF:TSS-DMR)、転写遺伝子2種類(LINE-1、HERV-FRD)です。種々の交絡因子で補正後、凍結胚移植や自然妊娠と比べ新鮮胚移植で胎盤のH19/IGF2遺伝子、LINE-1遺伝子、HERV-FRD遺伝子のメチル化が有意に低下していました。しかし、臍帯血のDNAメチル化には有意な変化を認めませんでした。

 

解説:遺伝子そのものに変化がなくても、DNAメチル化によるエピジェネテイクス変化が生じることにより、様々な異常や変化が生じることが示唆されています。本論文は、新鮮胚移植と凍結胚移植と自然妊娠でのエピジェネテイクス変化の違いについての検討したものであり、凍結胚移植や自然妊娠と比べ新鮮胚移植で一部の遺伝子の有意なDNAメチル化低下が生じることを示しています。

 

コメントでは、2012年と2018年に発表されたメタアナリシス では新鮮胚移植より凍結胚移植で周産期リスクの増加が報告されていることを指摘し、本論文の結果と齟齬があるとしています。しかし、本論文ではday 2〜3の初期胚移植のみを対象としているため、(現在の主流である)胚盤胞移植ではどうなのかは不明であり、さらなる検討が必要であるとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2021.9.21「不妊期間が長くなると、エピジェネティック異常が増える?

2013.12.26「☆加齢に伴いメチル化した精子が多くなる