脊髄損傷男性の電気刺激による射精:ビデオ論文 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、脊髄損傷男性の電気刺激による射精を紹介したビデオ論文です。

 

Fertil Steril 2021; 115: 1344(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.012

Fertil Steril 2021; 115: 1190(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.037

要約:脊髄損傷は若年男性に見られることが多く(17,810名/年)、90%が射精障害に悩まされます。T10より頭側での脊髄損傷の場合には、ペニスをバイブレータ刺激(PVS)することにより86%で射精に成功します。しかし、PVS不成功の方やT10より尾側での脊髄損傷の方には電気刺激による射精が実施されます。本ビデオでは、適切な電気刺激の方法を紹介します。なお、電気刺激はSeager model 14で行いました。自律神経反射異常の既往のある方やT6より頭側での脊髄損傷の場合には、カルシウムブロッカーであるニフェジピン10〜20mgを10分前に投与します。排尿後の側臥位で、膀胱を空にしアルカリ性バッファーを膀胱内に注入し、肛門鏡で肛門粘膜に問題がないことを確認後に、電気刺激のプローブを肛門に挿入します(位置は前立腺と精嚢に合わせる)。電圧を上げるとプローブ温度も上がりますので、通電は5秒間までとし、40°Cまで上昇した場合にはすぐに電圧をゼロにします。通電は射精した精液が回収できるまで電圧を徐々に上げながら繰り返し行います。膀胱内のサンプルを回収し逆光性射精の精子も探します(遠心分離は300gで実施)。完全脊髄損傷(S4〜5まで)の場合には麻酔は不要ですが、部分的に神経が残っている場合には全身麻酔+筋弛緩が必要です。電気刺激は、脊髄損傷男性の95%で精子回収が可能であり、全身麻酔の場合にはほぼ100%可能でした。精子回収後の顕微授精による妊娠率は37.5%/周期、50.0%/夫婦、出産率は33.3%/周期、43.8%/夫婦でした。なお、953回実施し、合併症は1例もありませんでした。

 

 

解説:脊髄損傷男性の電気刺激による治療は1931年に報告されましたが、長い間用いられていませんでした。2006年の泌尿器科学会の調査では、PVSあるいは電気刺激による射精を76%の施設で実施していることが判明しましたが、PVSのみ実施している施設がおよそ21%ありました。電気刺激を行わない理由は、電気刺激の研修をしていないこと、電気刺激装置の扱いに習熟していないことが挙げられました。本論文は、このような背景の元に実施されたものであり、脊髄損傷男性の電気刺激による射精の実際を丁寧に紹介しています。

 

コメントでは、このビデオ論文を見ることにより、トレーニングの一環として、脊髄損傷男性の電気刺激が正しく行われることを期待し、広く普及して欲しいとしています。