☆子宮外妊娠の胚は正常?異常? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、子宮外妊娠(医学的には異所性妊娠と呼びます)の胚の染色体をSNP法で検査した興味深い報告です。

 

Fertil Steril Rep 2021; 2: 67(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.11.002

要約:2015〜2018年に子宮外妊娠でオペを実施した178名の方において、摘出標本(ホルマリン固定+パラフィン包埋)の染色体分析の同意が得られた33名のうちDNAサンプルが採取できた8名の染色体をSNP法で検査しました。平均年齢33.4歳、BMI 23.4、妊娠歴2.3回、出産歴1.5回でした。8件とも染色体異常は認めませんでした(♂2、♀6)。なお、両親の口腔内の粘膜細胞のDNAと照合も実施しました。

 

解説:子宮外妊娠の胚は正常なのでしょうか?異常なのでしょうか?これまでに13論文が報告されていますが、古い論文がほとんどです(1974〜2000年に11論文2005年と2017年に1論文ずつ)。全体としては、染色体異常率は22.6%ですが、直近の2論文では3.7%と3.4%です。本論文は、子宮外妊娠の胚の染色体をSNP法で検査したものであり、染色体異常はゼロ(0/8)でした。さらに両親の染色体も同時に分析しており(SNP法では母親と父親のどちら由来であるかも確認できますので)、母体細胞ではないことも確認できています。本論文の問題点は、標本から検査可能なDNAサンプルがわずか24%(8/33)しか採取できていないことです。ここには、今後何らかの工夫が必要です。

 

子宮外妊娠の胚のほとんどは正常であるということになります。正常胚がなぜ子宮内に着床しないのか、何らかの理由があるのでしょう。ここに新たな研究の着眼点があるように思います。非常に興味深い報告です。