IgE発見とアレルギー機序の解明 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

免疫グロブリンE(IgE)を発見しアレルギー発症機序(特にレアギン型)の解明をされた石坂公成先生(1925〜2018年)の研究履歴をご紹介します。

 

医師協Mate 2012; 271: 4(日本)

要約:東京大学医学部の学生時代、伝染病研究所(現在の東京大学医科学研究所)で実習をした際に、細菌学者の「中村敬三」教授に出会い、ある本を翻訳してみなさいと言われました。その本は「The Chemistry of Antigens and Antibodies(抗原と抗体の化学)」でした。戦争中にドイツから届いた荷物の中にあったものです。この本をきっかけに免疫学の道に進みました。中村先生はその時抗原の研究を主に行っていましたが、石坂先生には抗体の研究をするようアドバイスしました。その後米国カリフォルニア工科大学に留学し、免疫化学を学ぶことになりました。米国でのボス「ダン・キャンベル」教授は「アレルギー反応が起こるのは、抗原と抗体が反応して作られた結合物が生物学的活性を持っているから」ではないかと推察し、石坂先生の研究テーマとしました。まず、動物実験で抗原と抗体の結合物を作り皮膚に注射することでアレルギー反応が生じることを確認しました。抗原1分子+抗体1分子では反応が起きず、抗原1分子+抗体2分子で初めてアレルギー反応が起きることを見出しました。次に、自らの背中の皮膚を用いて、アレルギー反応を調べる研究を行いました。アレルギー反応を起こす抗体は当時IgAと考えられていましたが、石坂さんの研究により否定され、IgEであることが明らかになりました(1966年)。その後の研究により、IgE抗体がアレルギーの診断に用いられるようになりました。石坂先生の奥様も同じ研究者であり、石坂先生の背中に毎日注射を打ったそうです。石坂先生は、現在の医学生や医師は覚えることが多くなりすぎて「考える楽しさ」を味わうことが少なくなっていることを嘆いており、「考える楽しさ」を大切に診療することで、医師としてのやりがいや達成感が得られるとしています。

 

コメント:この記事が掲載されたのは2012年、最近本棚を整理している時に医師協Mate2012を見つけました。石坂先生はとても素晴らしい研究者であり、免疫学のチャプターを一つ作り上げた方です。「考える楽しさ」は本当に重要なことだと私も感じています。私が毎日論文を読み、皆様にご紹介しているのは「考える楽しさ=知的好奇心」を強く持っているからだと考えています。私もいつか生殖医学のチャプターを築きたいと思っております。大変残念ですが、石坂先生は2018年にお亡くなりになられました。ご冥福をお祈りいたします。