Q&A2609 胚培養士から質問 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 最近、胚盤胞の発生速度と移植方法について新たに検討していることがあり、先生のお考えを是非ともお聞かせ願いたく、メッセージを送らせていただいております。

胚盤胞の発生速度として、BL3よりBL4、BL4よりBL5の方が着床率が高いとする論文をいくつか見つけ、また、当院での統計においてもそのような傾向が見られました。そこで、下記の2つの方法を考えております。
①D3で透明帯を1/4ほどAHA(レーザー)をして、BL5を意図して作り、凍結する。融解は移植当日、可能ならばAHAも行う。
②B3以上で凍結し、移植前日に融解してAHA。翌日移植。

①は、PGT-Aでも行われているので、それ自体が胚に対して悪い影響を与えることはない、ということだと思うのですが、ハッチングしやすくなるとはいえ、胚を余分にインキュベータから出してしまうことや、AHAを2回行うことになるため(D3のAHA時と融解時)、胚に意図しない形で穴が開いてしまう(例えば、D3のAHAで開いた箇所の真反対側に融解時のAHAで穴が開く)ことなどが気になります。また、この方法に限らず通常の凍結融解胚移植においてもですが、BL3以前の胚をAHAすると、BL4の状態をとばしてハッチングし、BL3から一気にBL5になる、というようなことも多く、それが問題かどうかは意見が二極化しているようです(細胞数が十分でない状態でハッチングすることが問題であるとする意見と、着床に至るまでの過程を短縮できることが有用であるとする意見)。
②は、余剰胚で試してみているのですが、ハッチング・ハッチド率がとても高く、胚がしっかりハッチング・ハッチドしたことを確認した上で移植することができると思うので、発生が進んだ胚の方が着床率が高いという点で有効かと思いますが、融解してから移植するまでの時間はあまりかけるべきではないとする文献も見たことがあり、1日長くインキュベータにいることが胚にとって悪影響なのかどうかを疑問に思っております。

 

A 満足のいく回答ではないので心苦しいのですが、現段階では①②のどちらが良いとは一概には言えません。エビデンスが不足しています。今後の研究によって方向性が定まるものと考えます。だからこそ、取り組んでみる価値があると思います。

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。