スポーツ選手のメンタルトレーニングについて、大阪体育大学スポーツ教育学科「菅生貴之」教授の興味深いお話をご紹介します。
医師協Mate 2020; 318: 16(日本)
要約:メンタルトレーニングは、自分自身と向き合う作業です。メンタルが強くなると人間力も備わり、周囲への気遣いなど成長も見られます。選手の自主性が非常に重要であり、メンタルトレーナーはあくまでもサポート役に徹し、共感的理解者になります。
メンタルとゾーン:メンタルが強い選手は心の課題に目を向け受け入れていますが、メンタルが弱い選手は目を背けています。高いパフォーマンスを発揮するには、緊張が過度(あがり)でも不足(さがり)でもない丁度良い緊張状態(いわゆるゾーン)が理想です。ゾーンは超集中状態とも言えます。ゾーンは神様のギフトだと思っている選手が少なくありませんが、自らが調整することでゾーンに入ることは可能です。この調整方法を知っている選手は長い間安定して結果を残しています。
心理的スキル:試合のどんな場面でも自分自身をコントロールできるようになるために行うべきこと。
①目標設定:自分の目指すレベルを明確にし、ひとつづつ達成できるよう順番をつける。
②ピークパフオーマンス分析:自分の調子が良かった時の状態を分析する(肉体的、精神的)。調子が悪かった時のことは振り返らない。
③リラクゼーショントレーニング:試合の緊張や不安を軽減する。
④イメージトレーニング:ピークパフオーマンス分析から調子の良かった時のイメージを持つ。試合の場面を想定して運動感覚をイメージしたり、会場の雰囲気をシミュレーションしておく。ルーティン作成など。
⑤心理的コンディショニング:心のコンディション*を記載した練習日誌を記録し、試合に向けてピークの状態に持っていく。
パフォーマンス(PM)が高い思考:方略的楽観主義と防衛的悲観主義
楽観(ポジティブ思考)
真の楽観主義 l 方略的楽観主義
(根拠のない自信) l (前向きに捉える)
低PMーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー高PM
真の悲観主義 l 防衛的悲観主義
(全てに否定的) l (前向きに捉える)
悲観(ネガテイブ思考)
方略的楽観主義が一番良いです。一方、防衛的悲観主義の方はネガテイブ思考ですが、未来に悲観的だからこそ周到に準備(練習)し、成果を出します。
*心のコンディションの記載方法:下記の項目について、毎日5段階評価し、定期的に振り返りをする。
①緊張、そわそわ、心配
②楽しくない、悲しい、寂しい
③腹が立つ、イライラ
④元気いっぱい、気分スッキリ
⑤疲れた、ぐったり
⑥わからない、うまく考えられない
(スポーツメンタルトレーニング教本2016)
解説:スポーツ心理学の先生のお話、本当に興味深く読みました。トップアスリートとしてやって行くためには、基礎体力や運動技術だけでなく、心理的技術のトレーニングも必要であるのは間違いないでしょう。その分野のサポート役もなかなか興味深い職業だと思います。オリンピックは延期になってしまいましたが、こんな時こそ、メンタル力の向上が求められているのではないかと思います。