Q&A2520 慢性子宮内膜炎が治りません | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 夫38歳、妻37歳:SLE(Ⅳ型、ループス腎炎2008年発症、現在病状安定、蛋白尿なし)
 

2016年〜人工授精、2017年11月〜体外受精開始。初回の顕微授精で妊娠したものの8週で心音が聞こえず稽留流産で掻爬手術を受け、その後採卵と移植を繰り返していますが、妊娠に至りません。(採卵計6回、凍結胚移植2回、新鮮胚移植1回、凍結胚1個保存中)

色々調べたところ、
①抗セントロメア抗体陽性(数値:113)
②慢性子宮内膜炎が治らない(2019年2月に判明)
ことが主な原因なのではと考えているのですが、先生はどのようにお考えでしょうか。

慢性子宮内膜炎の治療にかれこれ1年ほど費やしており、たくさん抗生剤を使っても治らないので、担当医からは、感染症以外の原因もあるかもしれない、治らないまま移植すると妊娠率が下がるから…と現在子宮内膜の掻爬を勧められています。私のように薬で治らない場合、掻爬は有効ですか。これだけ治療して治らないのは、もしかしたらSLEが原因で免疫系の炎症反応なのでは?と思い、担当医に聞きましたが「SLEで治らないというのは聞いたことがない」と言い切られてしまいました。過去に流産時の掻爬、ポリープ除去などもしていて、何度も掻爬して内膜が薄くならないか、ステロイドや免疫抑制剤など服用しているので、免疫力の低下で感染症リスク、治癒しにくいなどないのか…などとても不安です。ここまで治らない難治性の慢性子宮内膜炎の方は今後どういった治療をされていますか。私の場合慢性子宮内膜炎は治らないのでしょうか。治らない場合、このまま移植して妊娠できる可能性はありますか。

また、移植できない間に貯卵をしようと思い採卵を何度もしているのですが、ここ4回の採卵では一度も凍結胚が得られず、全く前に進めません(卵はそれなりに取れますが異常受精が多く、成長が遅く途中で止まり凍結に至らないことが多いです)。高額な採卵費用と体への負担だけが増し、精神的にもかなり追い込まれていて辛い状況です。SLEだから厳しいのでしょうか。こんな状況でも今後よい卵を得る方法はありますか。刺激方法や薬、治療、これ以外にすべき検査などで改善できる点などありましたら教えていただきたいです。

【採卵・移植】
採卵①ロング法、2017/11→11個採卵、顕微授精(成熟卵8個、受精卵7個→分割胚7個→胚盤胞2個(BL2、3AC)凍結)、残り5個は凍結に至らず(Mo,G5,G5,G5,G5)
移植①2017/11→5日目胚盤胞(5AC)移植(※孵化補助術、特別培養液あり)→陽性→8w0d心音聞こえず稽留流産手術(掻爬) →絨毛染色体検査で胎児染色体に異常あり(4倍体)
移植②2018/4→5日目胚盤胞(BL2/収縮)移植(※孵化補助術、特別培養液あり)→陰性
採卵②+移植③クロミッド使用、2018/9→3個採卵、顕微授精(2個受精)→新鮮胚1個移植(6G2、子宮内膜10mm)→ 陰性
採卵③クロミッド使用、2018/12→1個採卵、体外授精(胚盤胞まで育てて凍結予定だったが、受精確認後早い段階で発育停止し凍結に至らず)
採卵④クロミッド+隔日注射刺激+アンタゴニスト、2019/3→7個採卵、顕微授精7個→2PN3個、1PN1個、0PN1個、3PN2個→胚盤胞1個凍結(4AA day6)※SEET液も凍結、残り4個は凍結に至らず(6G3,7G3,10G3,11G3で発育停止) 
採卵⑤クロミッド+隔日注射刺激+アンタゴニスト、2019/5→6個採卵、2個変性卵のため顕微授精4個→2PN2個、3PN1 個、4PN以上1個)→胚盤胞まで到達せず、凍結至らず(13G2,12G3で発育停止)

採卵⑥クロミッド+隔日注射刺激+アンタゴニスト、2019/11→9個採卵、顕微授精9個→2PN4個、3PN1個、4PN以上2個、0PN2個)→胚盤胞まで到達せず、凍結至らず(10G2,10G4,7G3,9G3で発育停止)
現在、4AA胚盤胞1つ凍結中

1回目の採卵は採卵前に子宮内膜ポリープ除去を行い、ソフィア内服、刺激はスプレキュア、ゴナールF300、HMGフェリング、オビドレル、クロマイ膣錠などを使い、採卵後、カバサール0.25mg、HCG10000注射、ルトラール2mg、クロマイ膣錠、移植後ルトラール 2mg 、ダクチル 50mg、ユベラ N100mg、バイアスピリン100mgなど使いました。2〜3回目はクロミッド、スプレキュアのみ、4〜6回目はクロミッド、ゴナール150、HMG フェリング、ブセレキュアです(夫の転勤が多く、転院を重ねているので刺激法もバラバラです)。

【子宮内膜検査】
・子宮内膜ポリープ除去 →ポリープ4個 (2017/9)
・慢性子宮内膜炎陽性(2019/2)(CD138:10視野中23個) 
【治療1】ビブラマイシン100mg2週間内服→4/19再検査治らず(CD138:10視野中20個) 
【治療2】シプロキサン200mg、フラジール 250mg2週間内服→6/14再検査治らず(CD138:10視野中18個)  
【治療3】ジスロマック 250mg×4錠1回内服→10/31 再検査治らず(CD138:10視野中16個)
【治療4】サワシリン250mg×2/日,アジスロマイシン2錠/日:2週間内服→1/18再検査治らず(CD138:10視野中10個) 
・ALICE+EMMA 検査(2019/9/14)→内膜炎を特定できる菌は検出されず、子宮内に菌自体もほとんどない状態
EMMA TEST RESULT microbiome with ultralow biomass
ALICE TEST RESULT negative for bacterial pathogens causing chronic endometritis 
・子宮内細菌培養検査(2020/1)→感染症を疑うような細菌認めず全て陰性

【その他検査】
・不育症関連
凝固系(プロテインC、S、第 XII 因子活性、APTT)、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント (LA テスト)、抗カルジオリピンβ2GPI抗体(抗 CL/β2GP1 抗体)、抗カルジオリピン抗体IgG、IgM)、甲状腺ホルモン、血糖値→異常なし
・抗体検査→抗核抗体と抗セントロメア抗体が高値
抗核抗体320、抗SS-A抗体2、抗SS-B抗体(ー)、抗セントロメア抗体113
・免疫学的検査
Th1/Th2:12.2→2019/12〜プログラフ2mg/day服薬中(プログラフはループス腎炎の適用薬でもあるので、内科に相談して内科から処方してもらっています)
250Hビタミン D:10.7ng/ml→ 2019/12〜ビタミンDサプリ50μg/day服薬中
Th17/Treg:異常なし
・AMH:6.4(2016/7/27)→2.26(2018/8/4)→3.05(2019/2/13)

【SLEの服薬】
プレドニゾロン 8mg/day、プラケニル 200mg/day(2019/6〜)、ラベプラゾールNa錠10mg、アルファカシドールカプセル 0.5μg、フラビタン10mg

【精液所見】
精液データ(2019/11/29)精液量 4.8ml、精液濃度 800 万 /ml、運動率27%(処理後83%)
2015年12月に大腸がん(ステージIIIB、リンチ症候群)で手術・抗がん剤治療歴あり(ゼロックス療法)、今は再発転移なく元気です。抗がん剤の影響は2年くらいと聞きましたが、男性不妊外来受診し、ユベラ3錠/day 服薬中です。受精卵の育ちが悪いのは、夫の精子所見が悪いことも影響していますか。改善する方法などありますか。

 

A 他院で慢性子宮内膜炎が治らないということでリプロの外来にいらっしゃる方が少なくありませんが、リプロではこれまで慢性子宮内膜炎が治らなかった方はおられません。正しく内膜が採取できているか、診断が正しくできているか、治療薬の選定が適切か、の3点がポイントだと思います。内膜採取は低温期(生理終了から排卵前)に行い、診断は検査センターの病理の医師に任せるのではなく担当医自らがプレパラートを見ていただけるのが良いです(過去のものと比較する)。少しでも治っている傾向が認められた薬剤を選択します。そもそも検査センターの病理医は、慢性子宮内膜炎で現在普及している診断基準(まだ絶対的な基準ではありませんがリプロでは、この基準で上手く妊娠成績とリンクします)をご存知ない方が少なくありません。本来は20視野でカウントするところ(5個以上を陽性とする)を10視野で見ていることからも、それが伺えます。また、子宮内膜掻爬で慢性子宮内膜炎が治るという根拠を示した論文はありませんが、子宮内膜ポリープを繰り返す方がおられますので、今一度子宮鏡を行い、子宮内膜ポリープあるいはマイクロポリープがあればその除去は慢性子宮内膜炎の治療に有効である可能性があります。

 

また、SLEだから妊娠が難しいということはありません(SLEは妊娠しやすいが流産率がやや高いというのが一般的な見方です)。抗セントロメア抗体陽性の方は、採卵周期の刺激開始からプレドニンを10〜15mg/日服用し、顕微授精の際にpolscopeを用いて紡錘体の位置を確認することをお勧めします。これである程度3PN以上の異常受精を防ぐことが可能です。

 

受精卵(胚)は精子と卵子からできますので、発育が悪いのは、精液所見ともリンクします。泌尿器科医による男性外来の受診をお勧めいたします(治せるものが見つかる可能性があります)。また、卵子の改善策として、250Hビタミン Dが基準値に達しているか(30〜50ng/ml)の確認と、DHEAS、テストステロンの採血も行ってみてください。不足していれば、補充することで改善が期待できます。

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。