本論文は、凍結保護剤に抗酸化剤の添加が有用であることをマウスの卵子を用いて示したものです。
Hum Reprod 2020; 35: 12(オーストラリア)DOI: 10.1093/humrep/dez243
要約:3〜4週齢の雌マウス(C57BL/6xCBA)に卵巣刺激を行い、体外受精によりday4胚盤胞を獲得し、凍結保護剤を用いてガラス化法で凍結します。融解後1日培養して、胚の状態を評価し、移植後の経過を観察しました。なお、胚盤胞の培養液、凍結時の培養液(凍結保護剤)、融解時の培養液、融解後の培養液に3種類の抗酸化剤(アセチルLカルニチン、NアセチルLシステイン、αリポ酸)を添加したものと、添加しないものに分けて、全てのパターンを検討しました。抗酸化剤を添加しなかった凍結胚は、凍結しなかった胚と比べ、細胞数が有意に少なく、アポトーシスが有意に高くなっていました。抗酸化剤を添加した凍結胚は、抗酸化剤を添加しなかった凍結胚と比べ、ICM細胞数、全体の細胞数、細胞の拡張が有意に増加し、胚移植により出産した仔の体重と身長が有意に大きくなっていました。また、抗酸化剤添加により、ヒストンのアセチル化の低下が有意に改善されました。抗酸化剤添加の時期は、胚盤胞の培養液、融解時の培養液、融解後の培養液では効果がなく、凍結時の培養液(凍結保護剤)のみで有効でした。
解説:細胞の凍結の際には凍結保護剤を使用します。凍結保護剤と低温環境は活性酸素(ROS)を増加させますので、細胞へのダメージが生じます(ヒストンのメチル化やアセチル化の変化)。また、これらのダメージを修復するためにエネルギーを消費しますが、これによってさらにROSが増加します。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、ROSを処理するために3種類の抗酸化剤添加が有効であるかについてマウスの卵子を用いて検討したもので、凍結時の培養液(凍結保護剤)に抗酸化剤の添加が有用であることを示しています。あくまでもマウス卵子での検討ですから、ヒトでも同じ結果が得られるかどうかの検討が必要です。
下記の記事を参照してください。
2013.9.8「☆ガラス化法の安全性」