☆ガラス化法の安全性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

日本は、凍結技術に関して世界のトップを走っており、諸外国を5年程リードしているといわれています。日本ではいち早く「ガラス化法」を取り入れたことがその最大の理由ですが、諸外国では「ガラス化法」に躊躇するケースが多く、「緩慢凍結法」を行っている施設が依然として多くあります。何故、躊躇するのか、その最大の理由は「ガラス化法」では細胞毒性を有すると考えられている凍結保護剤の濃度が「緩慢凍結法」より高いことにあります。本論文は、「ガラス化法」では凍結保護剤の濃度が高いけれども、実際の胚の内部の濃度はその1/3であり、むしろ「緩慢凍結法」で用いる凍結保護剤の濃度より低いことを示しています。安全性を疑問視してきたこれまでの考え方を覆す重要な論文です。

hum Reprod 2013; 28: 2101(ベルギー)
要約:5~7週齢のFVB/Nマウス卵子を用い、「ガラス化法」で用いる凍結保護剤の各ステップにおける細胞内の容量(容積)をタイムラプスを用いた動画で計測しました。同じ断面で常に測定できるように、卵子をホールディングピペットで把持しながら撮影しました。最後に0~2.14Mのシュークロース(細胞内透過性のない液)を用いて、細胞内容量が変化しない「等張になる濃度」を調べました。細胞内容量は、凍結保護剤の各ステップで変化しますが、凍結保護剤濃度はどの段階でも2.14M未満で、おおむね0.82~1.40Mであることが判明しました。「ガラス化法」と「緩慢凍結法」でマウスの卵子を実際に凍結•融解し、卵子の生存率を比較したところ、急速融解法(シュークロース液に投入)により「ガラス化法」では100%、「緩慢凍結法」では77%でした。投入するシュークロース液の濃度は、0.25Mで73%、0.5Mで97%でした。

解説:「ガラス化法」は、1985年に哺乳動物で初めて行われ、1997年にヒトの胚で成功しました。凍結による細胞のダメージは、氷の結晶が細胞内で生じることがその最大の原因であり、凍結保護剤を用いて細胞内の水分を少なくすることが必要です。「ガラス化法」で用いられる凍結保護剤は、細胞内透過性のある凍結保護剤濃度が2.3~3.2MのnVS1とnVS2、細胞内透過性のある凍結保護剤濃度が4.8~6.4Mで細胞内透過性のない凍結保護剤濃度が0.5~0.75MのVSからなっています。一方、「緩慢凍結法」で用いる凍結保護剤の濃度は1.5Mです。本論文は、「ガラス化法」では凍結保護剤の濃度が高いけれども、実際の胚の内部の濃度は「緩慢凍結法」で用いる濃度と同じかやや低いことを示しています。

本論文は、主に日本で発展した「ガラス化法」の安全性を示す重要な論文です。凍結•融解操作を加えた細胞の生存率が良いことが、細胞へのダメージが少ないことを物語っていますので、「ガラス化法」の成績が良いこと自体が、細胞毒性が少ないことを意味していました。しかし、これまではその科学的根拠となるデータが乏しかったのも事実で、本論文は貴重な裏付けのデータとなります。
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