子宮卵管造影検査の造影剤:油性or水溶性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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子宮卵管造影検査の造影剤の副作用について、国家レベルのでの検討を実施したものです。

 

Hum Reprod Open 2020; 1: hoz045(オランダ)doi: 10.1093/hropen/hoz045

要約:2017年に子宮卵管造影検査を実施したオランダ国内の73施設に12の質問からなる電子調査を行いました。有効回答率は96%であり、全体として油性造影剤3289件、水溶性造影剤1876件が用いられていました。使用された造影剤の量は、油性造影剤8.0mL、水溶性造影剤10.0mLであり、61%の施設で感染予防の抗生剤が処方されていました。副作用の頻度は下記の通り。

 

         油性造影剤   水溶性造影剤    P値

血管内混入     4.8%       1.3%    <0.0001

塞栓症        0%        0%     〜

アレルギー     0.03%       0.1%    NS

アナフィラキシー   0%        0%     〜

骨盤腹膜炎     0.3%       0.4%     NS

副作用累計     5.1%       1.8%    <0.0001

 

解説:子宮卵管造影検査で使用する造影剤について、油性造影剤の方が水溶性造影剤より、実施後の妊娠率が有意に高くなることが大規模なランダム化試験で報告されています(39.7% vs. 29.1%、N Engl J Med 2017; 376: 2043)。その後に行われたメタアナリシスでも妊娠率および出産率に関して油性造影剤の優位性を示しています(Fertil Steril 2018; 110: 153、Obstet Gynecol 2019; 54: 172)。しかし、油性造影剤の唯一の懸念材料は副作用です。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、血管内混入の副作用が油性造影剤で有意に高いものの、重大な副作用は生じていないことを示しています。

 

本論文の問題点は、上記に示したN Engl J Med とObstet Gynecolの論文の著者のグループ(油性造影剤肯定派)による執筆であることです。また、母子の甲状腺に与える影響については何ら検討しておらず、全ての副作用を網羅できたとは言えません(油性造影剤の方が残留度が高い)。公正な評価を行うためには、メリットとデメリットを全て出し合うことが必要であり、本論文だけでは不十分と言わざるを得ません。

 

下記の記事を参照して下さい。

2019.2.20「Q&A2114 造影剤の残留について

2019.2.19「Q&A2113 油性造影剤による影響は?

2018.12.4「Q&A2032 甲状腺機能低下症で油性造影剤は?

218.10.19「☆卵管造影:水溶性造影剤vs.油性造影剤

2017.12.26「Q&A1683 卵管造影の造影剤と甲状腺

2016.6.8「Q&A1115 ☆造影剤で甲状腺機能異常?