Q&A2274 海外在住、ドナー卵子を提案されました | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 夫婦ともに40歳、海外にて治療中

2018年4月に不妊クリニックに通い始め、これまで3回の体外受精を行いましたが妊娠に至っていません。3回目の体外受精後、ドクターから自分たちの卵と精子での妊娠は諦め、ドナー卵子での体外受精に移るように強く勧められています。子供が欲しいのでドナー卵子も考えてはいますが、今すぐに自分たちの卵と精子での挑戦を諦めてドナー卵子に進むべきか悩んでいます。松林先生の場合、または日本で一般的な対応として、すぐにドナー卵子での体外受精となるでしょうか、教えていただけるとありがたいです(日本でドナー卵子の体外受精がそもそも可能なのか、寡聞にして存じませんが)。ドナー卵子の前に私自身の卵子とドナー精子での可能性も考えています。これについても、アドバイスいただけると幸いです。


1.夫婦の健康状態、サプリメント、投薬
妻:日本人、BMI 21、喫煙経験無し、飲酒は2018年5月からやめています。冷え性気味ですが(平均体温は36度台後半なので、日本人にしては平均的かと思いますが)、これまで特に大きな病気をしたこともなくいたって健康です。在宅で少し仕事をしていますが、基本的には主婦です。

1)ビタミンD(Cholecalciferol 25μg)を1日 1錠;2017年3月にGPでの検査で極端に数値が低いことがわかり、継続しています。
2)Elevitを1日1錠;2018年10月から、日本のとは処方がちょっと違うようですが規定量です。(https://www.elevit.com.au/product-range/elevit/
3)DHEAを1日75mg ;2018年12月末から
4)ユビキノールを1日300mg;2018年12月末から
5)ビタミンC500mgの錠剤を1日2錠
夫:白人、オーストラリア人、BMI 23、喫煙経験があり10年ほど禁煙していましたが、ここ数年吸ったりやめたりを繰り返しています。退役軍人でPTSDをもっており、症状としてdepression, anxiety, alcoholicなどがあり薬を服用しています。アルコールについては、週に1,2日は全く飲まない日がありますが、飲む日は375mlのビール缶を6本くらい飲むのが平均です。高コレステロールと2型糖尿病のため薬を服用しています。退役軍人年金で生活しており、自宅にあるパドックで飼っている牛や鶏の世話をしたり、趣味のバイクいじりやバイクレースに出たりして過ごしております。
1)Menevitを1日一錠;2018年5月から
2)ユビキノールを1日300mg;2018年12月末から
3)ビタミンC500mgの錠剤を1日2錠
4)PTSDの薬(その時々の調子に合わせて服用しています)
ノルアドレナリン・ドーパミン脱抑制薬(Voldoxan)
セロトニン・アドレナリン再取り込み阻害薬(Desvenlafaxine)
抗不安薬(Diazepam)
5)コレステロールのコントロールにAtorvastatin
6)血糖コントロールにJanumet XR

2.治療経過
2018年4月にクリニック初診、AMHと子宮と卵管検査をしました。AMHが0.6ng/mlということがわかり、すぐにIVFに進むことになりました。また、小さなポリープがいくつか見つかり、通常だと放置しておく程度だが妊娠の妨げになる可能性ありとのことで5月にポリープ除去手術を受けました。

1回目:アンタゴニスト法、Day2〜9 Puregon(FSH製剤)300IU、Day6〜10 Orgalutran 250μg、 Day10 Ovidrel 250μg、Day12 採卵2個、ICSI、Day16 新鮮胚移植1個、陰性(残り1個は胚分割せず)、移植当日とDay19にPregnyl 1500IU。


この結果を受けて血液検査をしました。私の検査13項目については、すべて正常でした(APCR, Homocysteine, Antithrombin III, Protein S, Anticoagulant, HbA1C, RhF, B2Gp1/Cardiolipin Antibodies, EN, Thyroid Autoantibodies, ANA Coeliac Disease Autabs, Anti DS DNA, Karyotype )。しかし、夫に染色体異常が見つかりました。染色体6と21にbalanced reciprocal translocation 46XY t(6;21) (q23;q21)があることがわかりました。Translocationの染色体上での位置の関係で、normalなもしくはbalanced reciprocal translocation 染色体になれる確率は17%と言われました。また、83%の確率のうち、妊娠に至らないよりも、妊娠できても流産もしくは重い障害を持つ子供になる可能性が高いため、次回はfresh embryoでの移植ではなく、PGT-Aを行うことに決めました。

2回目:1回目と完全に同じ、Day12に10mm以上の卵胞は見られず、Day16に16mmの卵胞が1つ見えましたが、Day19に消失、採卵キャンセル


なおこの回で、Day19まで私の希望で粘りましたが、ドクターからはDay16の時点でキャンセルの提案がありました。私の通っているクリニックに限るのか、この国でのデフォルトなのかわかりませんが、卵胞が1個しか育たない場合にはチャンスが低いため、基本的には採卵をキャンセルするようです。この回のあと、ドクターから別の薬、サプリメント摂取などまだできることがあるのでもう一回挑戦しましょう、ただしドナー卵子への移行も考え始めましょうと言われました。
 

で刺激。

3回目:Day2〜12 Menopur(hMG製剤)375IU、Day6〜12 Orgalutran 250μg、 Day13 Ovidrel 250μg、Day15 採卵1個(卵胞は大2個、小1個)、ICSI、Day17 胚発育遅い、Day20 発育停止。

この3回目の結果を受け、ドクターは薬を変えた効果やサプリメントの効果は見られなかったと判断し、経済的な負担も考えて、自己卵と精子での体外受精はこれで止めにして、次回はドナー卵子に挑戦しましょうと言いました。しかし、私としては結局1個しか採卵できなかったけれど小さいものを含め卵胞が4個育ったということをポジティブに考えていましたので、ショックを受けました。私の年齢と夫の遺伝によって、卵と精子に起こる染色体異常の確率が非常に高く、成功のチャンスが低いことは理解しているつもりですが、やはり諦めきれなくもう一度だけ自分たちの卵と精子で体外受精することにしました(2019年6月予定)。また、素人考えですが、あとどのくらいの時間が私にあるのかを推定できるかと考え、昨年の数値からどのくらい下がったのかAMHを再度検査したいと聞いてみました。しかし、ドクターからはほぼ変化していないだろうし、これまでの治療結果からわかる以上のことはAMHではわからないし、コストもかかるので不要だと言われました。夫は基本的に私がしたいようにしていいと言ってくれていますが、私にかかる治療の負担や、子供を持てたとしても自分たちの年齢が高く成長をいつまで見守れるかわからない不安などから、できるだけ早くドナー卵子に進みたいというのが本心のようです。ドナー卵子でもチャンスは上がるけど、妊娠する私の年齢が高いことや、胚自体がパーフェクトではない可能性もあることなど、確実に子供を持てるわけではなく早く決断したほうがよいことを理解し、また挑戦できること自体をラッキーだとも考えています。この国では多くの人がドナー卵子で子供を授かっており、専門家や当事者(親と子供の両方)がドナー卵子で子供を持つこと/生まれることに関していろいろな発信をしていますし、サポートもあるようです。ドナー卵子を見つけるのに時間がかかりますので、ドナー探しはすぐに始めようと考えています(可能であれば白人とアジア人のカップルから頂きたいと考えていますが、ほぼ無理だと思います。正直なところ、この点も少し私が諦められない理由です)。諦めの悪い私は自分の卵子とドナー精子での体外受精の可能性も考えています。あまり考えないようにしていますが、次回6月の採卵で結果が出なかった場合、今のクリニックですぐにドナー卵子での体外受精に進む前に、念のため他のクリニックにセカンドオピニオンを求めに行ってみようとも考えています。

長くなりましたが、松林先生でしたらどうお考えになるでしょうか。
①ドナー卵子に進む前に他にできることがあると思われますか。
② 私の現在の年齢や治療歴から、ドナー精子での体外受精はやってみる意味があると思いますか。

 

A 海外では、40歳以上の女性には1回自己卵での治療を実施し、結果が出なければ即ドナー卵子の治療になるのが一般的です。一方、日本ではドナー卵子の治療は認められていませんので、いつまでも自己卵の治療が行われます。どちらにも賛否両論があると思いますが、このような現状から日本では 「卵巣機能低下」あるいは「高齢」の方の治療が世界一実施されており、そのためこれらの方の治療が得意です。また、日本人には日本人に合ったやり方があり、そのノウハウもあります。従って、自己卵での治療 をご希望の場合は、ぜひ日本で治療されることをお勧めいたします。しかし、日本ではドナー精子での体外受精も認められていませんので、ご夫婦の精子と卵子を用いた治療になります。

 

①卵子の改善策として、医学的に証明されているのは、25OHビタミンD、テストステロン、DHEASの採血を行い不足が認められた場合にのみ、補充による改善が期待できます。また、糖代謝の指標であるHOMA-Rの採血を行い耐糖能異常が認められた場合には、その是正により卵子の改善が期待できます。
②ドナー精子での体外受精をやってみる価値はあると思いますが、残念ながら日本では実施できません。

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。