Dr. Mの診療録 その18:妊娠中の異常な痛みに要注意 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

 妊娠中の女性は、比較的若い方が多いため、癌などにはなりにくいはずの年齢である。しかし、知らないうちに癌に侵されていることもある。患者さんはもともと排卵障害があって、排卵誘発剤を使わなければ卵子が成長しない方だった。毎日のように病院に通い努力の甲斐あって妊娠したが、残念ながら最初の妊娠は流産に終わった。2回目の妊娠は順調に経過していった。妊娠9ヶ月になった頃、頸の痛みを訴え始めた。妊娠中は背骨への力のかかり方が変わってしまうため、腰痛をはじめ背骨の痛みはほとんどの方が経験するものである。最初は湿布剤で経過をみるのが普通で、この患者さんもそのようにした。しかし、痛みは改善せず激痛となってきたため、MRIを撮影することにした。あいにくその病院ではMRIの設備がなかったので、近くの病院で撮影してもらったところ、患者さんの目にも明らかに見える腫瘍が背骨を浸食していたのである。このため、背骨がいびつに曲がり痛みを生じていた。ただちに、高次医療機関に紹介した。早産であったが帝王切開を行い、まず赤ちゃんを助け出した。その1週間後に、整形外科で手術を行った。脊髄の悪性腫瘍だった。その後、3ヶ月程で患者さんは命を引き取ったという噂を耳にした。この他にも、子宮癌、卵巣癌、胃癌、大腸癌、肺癌、血液癌などの妊婦さんもいらした。