成長ホルモン(GH)による改善効果は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、成長ホルモン(GH)使用による体外受精のインビトロでの改善効果を示したものです。

 

Fertil Steril 2018; 110: 1298(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.08.018

Fertil Steril 2018; 110: 1261(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.09.003

要約:62名の女性(23〜45歳)をGH群と非GH群の2群に分け、採卵時に得られた445個の卵胞の顆粒膜細胞の各種受容体(FSHR、LHR、BMPR1B、GHR)を分析しました。なお、GH群は前周期の黄体期中期、採卵周期のCD2、CD6、CD8、CD10、CD12にそれぞれ10IUずつ計60IUサイゼンを投与しました。その他のプロトコールはGH群と非GH群で同じであり、培養士にはどちらの群であるかわからないようにしました。非GH群と比べGH群では、FSHR、LHR、BMPR1B、GHR全ての受容体の密度が有意に増加しており、妊娠率も有意に高くなりました。

 

解説:卵巣反応不良の方に、GH使用により、HMG/FSHに対する顆粒膜細胞の反応を改善すること、IGF1産生の増加、卵巣内の女性ホルモン産生の増加が実験で示されています。しかし、臨床的にはGHの効果には賛否両論があり、一致した見解は得られていませんでした。2010年に発表されたCochraneレビューでは、GHの有効性を示す記述がありますが、小さな研究からの結論でしたので、大規模な臨床研究が行われるまで、GHの有効性の判断には慎重であるべきというスタンスでした。2017.12.19「卵巣反応不良の方へ成長ホルモン(GH)は?」の記事でご紹介したメタアナリシスでは、GH使用により、採卵数が1.09倍、成熟卵数が1.48倍、臨床妊娠率が1.65倍、出産率が1.73倍に有意に増加し、キャンセル率が0.65倍に有意に低下しました。しかし、受精率、着床率には有意差を認めませんでした。卵巣反応不良の定義としてボローニャクライテリアが2011年に発表されましたが、検討された11論文のうちボローニャクライテリア以降に発表されたのはわずか3論文です。つまり、検討された母集団が一様ではありませんので、結論を鵜呑みにすることはできませんが、卵巣反応不良の方へのGH投与はある程度期待を持って良いのかもしれません。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、GH使用による体外受精のインビトロでの改善効果(FSHR、LHR、BMPR1B、GHRのアップレギュレーション)を示したものです。なお、BMPR1B(骨形成タンパク質受容体)はALK6としても知られ、アクチビン受容体と非常に類似しており、軟骨内の骨形成と胚形成に関与します。

 

コメントでは、統計方法に問題があるとしていますが、統計というよりもGH使用によるインビトロでの改善効果を見た基礎研究ですので、これで良いと思います。なお、GHの使い方にも一定のものはありません。GH 1mg=3IUですから、60IU=20mgとなります。当院では、毎日2mgを刺激中に用いるプロトコールですので8日間で、2x8=16mgになります。2017.12.19「卵巣反応不良の方へ成長ホルモン(GH)は?」の記事でご紹介したメタアナリシスでは、黄体期にGHを使用した場合には臨床妊娠率と出産率の有意な改善は認められていません。

 

下記の記事を参照してください。

2017.12.19「卵巣反応不良の方へ成長ホルモン(GH)は?

2016.4.13「成長ホルモン(GH)の効果は?

2012.11.19「卵巣反応不良の定義:ボローニャ•クライテリア