アロスタティックロード(身体的ストレス)と妊娠の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、アロスタティックロード(AL)と妊娠の関係について検討したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 1757(米国)doi: 10.1093/humrep/dey261

要約:2011〜2014年に米国の12施設で、18〜40歳の原因不明不妊女性900名を対象に、刺激法別にランダムに3群に分け人工授精を行い、刺激法別の妊娠成績を前方視的に最大4周期まで検討しました(AMIGOSスタディー)。ALスコアは、BMI、ウエスト/ヒップ比、収縮期血圧、拡張期血圧、DHEAS、HDL、LDL、中性脂肪、CRP、HOMAから計算されます(Am J Phys Anthropol 2017; 162 : 44. doi: 10.1002/ajpa.23146.)。ALスコア増加は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)を1.62倍に、早産を1.44倍に、低体重児を1.39倍に有意に増加させましたが、妊娠率、流産率、出産率には影響しませんでした。

 

解説:アロスタシス(allostasis、動的適応能)とは、変化することで体内環境の安定性(ホメオスタシス)を維持することを意味し急性のストレスに対し適応していくプロセスを説明する概念として用いられます。アロスタティックロード(allostatic load:AL)とは、その急性ストレスに機能するアロスタシスを制限する因子であり、この負荷が過剰な場合に病気などの不適応がおこると考えられています。正の面(運動適応)は運動ストレスに対してアロスタシス機構が働いた結果もたらされるものであり、負の面(不適応)はアロスタシス機構を妨害するALが増大し、身体諸機能が破綻した結果もたらされます。それゆえ、ALは身体的(肉体的)ストレスの指標とも言えます。ALは、神経内分泌、心血管系、代謝系、免疫系の変化を評価する指標として捕らえられており、ALスコアはこれらの数値から計算されます。妊娠はALの指標と密接な関連があると考えられ、ALは妊孕性や妊娠中の合併症との関連が推測されますが、このような研究はこれまでありませんでした。本論文は、ALと妊娠の関連を前方視的に検討したものであり、妊孕性には影響しませんが、妊娠中の合併症を有意に増加させることを示しています。

 

AMIGOSスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2018.6.12「男女のうつ病、抗うつ薬と妊孕性について

2018.6.9「人工授精の刺激法 その2