本論文は、重症妊娠合併症(出産から42日以内の母体死亡と生死をさまよう母体重症合併症、severe maternal morbidity=SMM)とBMIと妊娠方法の関連について検討したものです。
Hum Reprod 2018; 33: 1548(カナダ)
要約:オンタリオ州の出生統計を用い2013〜2014年に出産した114,409名で、妊娠20週以上18歳以上の方を対象に重症妊娠合併症(SMM)を含む母体合併症と妊娠前のBMI(25以上と25未満の比較)と妊娠方法(体外受精と一般妊娠治療)の関連について検討しました。結果は下記の通り。
SMM 妊娠高血圧 妊娠高血圧腎症 妊娠糖尿病
一般治療 BMI<25 0.50% 0.27% 0.12% 0.42%
BMI>25 0.70% 0.79% 0.26% 0.93%
体外受精 BMI<25 1.24% 0.57% 0.26% 0.80%
BMI>25 0.96% 1.10% 0.56% 1.66%
一般治療かつBMI<25と比べ有意差の見られた項目を赤字表示、有意差の見られなかった項目を青字表示としています。
妊娠前のBMIと妊娠方法は独立した因子であり、妊娠高血圧腎症(従来の重症妊娠中毒症のこと)と妊娠糖尿病では相加効果がみられましたが、妊娠高血圧と帝王切開では相加効果は認められませんでした。
解説:カナダでは肥満(BMI>30)が25%に、過体重(BMI 25〜30)が19%に認められます。肥満と不妊症の関連や肥満と母体合併症の関連はよく知られていますが、BMIと妊娠方法(体外受精と一般妊娠治療)と母体合併症を同時に比較した検討はなされていません。体外受精と肥満はどちらも母体死亡率増加のリスク因子とされています。近年カナダでは重症妊娠合併症(SMM)が増加しており、BMIの増加と体外受精の増加の関与の調査は喫緊の課題です。本論文では、重症妊娠合併症(SMM)とBMIと妊娠方法について検討したところ、BMIと妊娠方法は独立した因子であり、妊娠高血圧腎症と妊娠糖尿病では相加効果が認められたことから、体外受精を行う肥満女性は妊娠前の減量(目標BMI<25)に心がけることが望ましいとしています。
日本では、多くの女性がBMI<25ですから、カナダの場合と同様な基準が成り立つとは限りません。また、本論文の調査は疫学(統計)調査ですので、因果関係(原因と結果)を示すものではありません。あくまでも関連性が見られたという意味ですのでご注意ください。