☆加齢により卵胞発育が低下するのはLH高値が元凶? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文はあくまでのマウスでの実験ですが、非常に興味深いデータを示しています。

 

Aging Cell 2017; 16: 1288(日本)doi: 10.1111/acel.12662

要約:卵巣顆粒膜細胞のニューレギュリン1(Nrg1)遺伝子をノックアウトしたマウスは、高齢女性にみられるものと類似のホルモン変化(AMH低値、FSH高値、LH高値)や生理周期延長、妊孕性低下が生じます。卵巣を調べると、2次卵胞で卵胞発育が停止しており、異質な細胞が卵巣の間質に存在していました。異質な細胞の一つはLH受容体陽性細胞であり、もう一つはコラーゲンとアクチンが豊富な繊維性細胞です。これらの細胞はGnRHアンタゴニスト投与(50 μg/kg/日)により消失し、胞状卵胞への発育が開始し、生理周期の正常化と妊孕性の回復が認められました。

 

解説:Nrg1は排卵過程の卵胞内で発現する成長因子をコードする遺伝子であり、卵の受精可能時間を決定しています。Nrg1遺伝子を全身で欠損させたマウスは致死性であるため、卵巣顆粒膜細胞でのみNrg1遺伝子欠損させるための工夫をしています。すなわち、Nrg1遺伝子にloxP配列を挿入した遺伝子組み換えマウ ス(Nrg1flox/flox マウス)と卵巣顆粒膜細胞でのみ loxP 配列を切断するCreリコンビナーゼを発現する遺伝子導入マウス(Cyp19a1Cre マウス)を交配させ、Nrg1flox/flox;Cyp19a1Creマウスを作出しています。本マウスは、生後わずか6ヶ月で妊孕性を失うため、高齢女性のモデルマウスとして期待されています(Mol Endocrinol 2014; 28: 706. doi: 10.1210/me.2013-1316)。本論文は、このマウスの卵巣機能がアンタゴニスト投与により回復することを示しています。本論文の著者は、卵巣間質の繊維化がLHによって生じるが、LHを抑制すれば復活するので、LH高値が元凶であるとしています。ヒトでの検討は行われていませんが、アンタゴニストはすぐに使える薬剤ですので、本法は高齢の方のみならずPOI(早発卵巣不全)の方に新しい治療を提供できる可能性を秘めています。遅延スタート法ではアンタゴニスト製剤を最初に用いますが、本論文の変化と同じことが起きているのかもしれません。

 

下記の記事を参照してください。

2014.7.30「☆遅延スタート法