本論文は、味覚受容体遺伝子(TAS)多型と男性不妊の関係について示したものです。
Hum Reprod 2017; 32: 2324(イタリア)doi: 10.1093/humrep/dex305
要約:2014〜2016年に精液検査を行った白人男性494名(18〜58歳)を対象に、12個の味覚関連遺伝子の遺伝子多型19SNPsを選択し、年齢、喫煙歴、精液所見、遺伝子多型の関連を検討しました。調査した遺伝子多型の内訳は、甘味受容体5個(TAS1R1、TAS1R2)、苦味受容体13個(TAS2R1、TAS2R3、TAS2R4、TAS2R5、TAS2R14、TAS2R44、TAS2R48、TAS2R49、TAS2R50)、GNAT3です。その結果、TAS2R14-rs3741843のG/Gは直進運動精子減少と有意な関連を認め、TAS2R3-rs11763979のT/Tは尖体反応減少と有意な関連を認めました。
解説:味覚受容体が精巣と精子に存在することが最近明らかになりました。味覚受容体遺伝子のTAS1R3欠損マウスは不妊になることが報告され、味覚受容体と不妊の関連が示唆されています。ヒトではTAS2R38遺伝子多型と無精子症の関連が一つの研究で報告されましたが、二つの研究でその関与が否定されました。味覚受容体には遺伝子多型が数多く存在し、飲酒習慣、ニコチン依存生、食物や飲み物の嗜好、癌になりやすいBMI、加齢(aging)との関連が報告されています。本論文は、味覚受容体遺伝子多型と男性不妊の関係について調査した最大規模の報告であり、TAS2R14-rs3741843とTAS2R3-rs11763979遺伝子多型と男性不妊の関連を示しています。TAS2R14-rs3741843は、TAS2R43発現を調節していますが、TAS2R43は繊毛運動に関与する遺伝子であり、精子の鞭毛運動低下をきたす可能性が推察されます。また、TAS2R3-rs11763979は、WEE2-AS1(WEE2アンチセンスRNA1)遺伝子発現を増加させますが、WEE2遺伝子は精巣に存在し精子の減数分裂を調節していますので、AEE2-AS1増加により精子成熟に支障をきたす可能性が考えられます。
味覚受容体は、味覚のみに関与しているのではなく、様々な役割を担っていることが次第に明らかになってきました。精子と味覚、何のつながりもないと思われたところにも関連がある、このような発見が医学(生命科学)の醍醐味とも言えるでしょう。しかし、本論文は関連性を見出したのみですので、今後の検討が必要です。