☆人工授精後の安静時間は必要か? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、人工授精後の安静時間は必要かについて検討したものです。

 

Hum Reprod 2017; 32: 2218(オランダ)doi:10.1093/humrep/dex302

要約:2010〜2014年に原因不明あるいは軽度男性不妊の方498名を、人工授精後15分安静群非安静群ランダムに分け、妊娠成績を前方視的に検討しました。原因不明とは、排卵があり、両側とも卵管通過性が良好で、総運動精子数が1000万以上とし、軽度男性不妊とは、総運動精子数200万〜1000万としました。1:1にランダムに割り付け、6周期全て15分安静あるいは全て非安静で実施しました。最初の3周期は卵巣刺激なしで、後の3周期は卵巣刺激あり(CD3からHMGかFSHを注射で使用)としました。また、いずれの周期もHCG 10000単位をトリガーとして使用し、その40〜42時間後に人工授精を実施しました。18mm以上の卵胞が3個以上、あるいは14mm以上の卵胞が5個以上の場合にはキャンセル周期としました。なお、本試験では医療者にはブラインドにはなりません。妊娠継続率は、安静群32.2%、76/236)と非安静群40.0%、98/245)で有意差を認めませんでした。また、流産率、多胎妊娠率、出産率にも有意差はありませんでした。

 

解説:人工授精後の安静時間は必要か否かについて、2つのランダム化研究が2000年と2009年に報告され、10〜15分の安静が有効であるとされていました。しかし、それぞれ95名と391名を対象に実施され、妊娠率が極めて低いことや卵巣刺激法にバラツキがあるなどの問題点が指摘されていました。2015年には、5分の安静よりも10〜20分の安静で臨床妊娠率が高いとの論文が報告されましたが、妊娠継続率の検討はされていません(なお非安静群はありません)。本論文は、安静群と非安静群をひとつの施設で同一条件で実施したものであり、妊娠継続率に違いはないことを示しています。したがって、胚移植の場合と同様に、人工授精後の安静も不要と考えます。

 

なお、膣内射精した精子は5〜45分で卵管膨大部(精子と卵子が出会う場所)に到達するとの興味深い報告が本論文の引用文献にありました。安静を考える上でも重要な論文ですので、近日中にご紹介します。

 

下記の記事を参照してください。

2017.4.24「☆胚移植ガイドライン:ASRM