チョコレート嚢腫固定術:メタアナリシス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、チョコレート嚢腫固定術について、メタアナリシスを行なったものです。

 

Fertil Steril 2017; 108: 117(イスラエル)

要約:チョコレート嚢腫固定術に関する18論文メタアナリシスにより分析しました。アルコール固定の再発率は、アルコール留置群(0〜13.3%)よりアルコールフラッシング群(0〜62.5%)で3.47倍に有意に高くなっていました。一つの研究では、アルコールフラッシング時間が10分以上で再発率9.1%、10分未満で62.5%となっていました。また、テトラサイクリン固定とメソトレキセート固定の再発率は、それぞれ25〜46%と18〜26%でした。固定がない吸引のみの再発率は、54〜100%でした。採卵数は、腹腔鏡手術(嚢腫摘出)よりアルコール固定術で多い傾向がありましたが、臨床妊娠率は同等でした。また、無治療とアルコール固定術では、採卵数と臨床妊娠率に有意差を認めませんでした。

 

解説:子宮内膜症は、生殖年齢の女性の6〜10%に見られる良性疾患です。中でもチョコレート嚢腫の頻度が最も高く、不妊症との合併も少なくありません。2013年、欧州生殖医学会(ESHRE)は「体外受精の実施前にはチョコレート嚢腫に手をつけないことが基本で、チョコレート嚢腫が3cmを超え且つ痛みを伴う場合にのみ手術を行うこと。また、手術を行うと卵巣機能が低下することを必ず説明すること」とのガイドラインを発表しました。これに対して、待機療法、吸引のみ、あるいは固定術という方法もあります。固定術は、チョコレート嚢腫の内側の壁の細胞にダメージを与えるものです。ダメージを与える薬剤として、アルコール、テトラサイクリン、メソトレキセートなどが使用されています。しかし、チョコレート嚢腫固定術は、世界的にほとんど行われていません。本論文は、チョコレート嚢腫固定術に関するメタアナリシスを実施した初めての報告で、再発率についてはアルコール固定術(特に留置)が良好ですが、臨床妊娠率については無治療と変わりないことを示しています。本論文の著者は「アルコール固定術は、痛みの症状があり卵巣予備能が低下した場合にのみ考慮しても良い」としています。

 

下記の記事を参照してください。

2014.4.23「☆卵巣嚢腫の取り扱いについて