点鼻薬が無効な場合にはダブルトリガーで | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、トリガーとして点鼻薬(GnRHa)が無効な場合には、ダブルトリガーが有効であることを示しています。

 

Fertil Steril 2016; 106: 1356(中国)

要約:2013〜2016年に採卵を行った8092名8970周期で、トリガーとして点鼻薬(GnRHa)のみの場合と、ダブルトリガー(点鼻薬+hCG 1000、2000、5000単位のいずれか)の場合の培養成績を後方視的に検討しました。点鼻薬トリガー後10時間でのLH<15の243周期(2.71%)は、LH>15の8727周期と比べ、採卵率(48.2% vs. 68.3%)、成熟卵数(4.1個 vs. 8.3個)、凍結胚数(2.3個 vs. 3.5個)のいずれにおいても有意な低下を認めました。LH<15群はLH>15群と比べ、高BMI、低FSH(CD3)、低LH(CD3)、刺激日数とhMG使用量が多い、採卵決定時のE2とFSHが低いという特徴がありますが、低LH(CD3)が唯一、点鼻薬トリガーで反応低下を予測しうる因子でした。LH<15の方には、次回の採卵でダブルトリガーを用いたところ、採卵率の有意な改善を認めました(点鼻薬+hCG 1000で60.0%、点鼻薬+2000で68.1%、点鼻薬+5000単位で65.8%)。

 

解説:hCGをトリガーにするとOHSSのリスクが生じるとされているため、点鼻薬(GnRHa)のトリガーがしばしば用いられます。しかし、トリガーとして点鼻薬のみを用いた場合には、採卵率や成熟率の低下のみならず、妊娠率や着床率が低下することも知られています。特に、トリガー後10時間でのLH<15の場合には、この傾向が顕著になると報告されています。本論文では、2.71%の周期で認められていますが、これらの方は次回採卵でダブルトリガーを用いると、採卵率の有意な改善を認めています。なお、採卵率とは「卵子あり数/穿刺卵胞数」つまり、空胞でない率を意味します。また、ダブルトリガーは、hCG単独トリガーで未熟卵が多い場合にも有効な改善策です。

 

ダブルトリガーについては、下記の記事を参照してください。

2016.9.18「遺伝子解析によるダブルトリガーの有効性

2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?