胚移植後のエアーバブルの位置は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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胚移植後のエアーバブルの位置について、興味深い報告がありましたので、ご紹介いたします。

Hum Reprod 2016; 31: 591(香港)
要約:2011~2013年に体外受精を実施した方277名につき、day 3の分割胚移植後1分、5分、60分でのエアーバブルの位置を3D超音波で観察し、妊娠成績を前方視的に検討しました。移植後1分、5分でのエアーバブルの位置と妊娠率の有意な関連は認められませんでした。移植後60分でのエアーバブルの位置が、子宮底部(奥)から15mm以上と比べ15mm未満の場合に妊娠率(33% vs. 47%)、着床率(18% vs. 26%)が有意に高くなりました。また、移植後60分のエアーバブルが、子宮底部(奥)へ移動した場合および位置の移動がない場合と比べ子宮下部(手前)へ移動した場合に、妊娠率(46% & 55% vs. 25%)、着床率(33% & 38% vs. 15%)が有意に低くなりました。

解説:胚移植後の際には、胚をエアー(空気)と培養液でサンドイッチしたものを注入しています(エアー:培養液:エアー:胚+培養液:エアー:培養液:エアー)。超音波ではエアーは白、培養液は黒く見えます。エアーの部分が白く光って見えるため、「この白いところに受精卵が入りましたよ」と説明されますが、実際に見えているのはエアーの部分です(これをエアーバブルと言います)。エアーバブルは空気なので動きますが、本研究は、移植後のエアーバブルの動きを前方視的に3つの時間帯で調べた初めての報告です。

移植のカテーテルは子宮下部(手前)あるいは子宮中央にあると妊娠率が良いと報告されています。しかし、エアーバブルは子宮底部(奥)の方が妊娠率が良いと報告されており、両者の結果に乖離がみられます。本論文は、移植直後のエアーバブルの位置は妊娠率とは無関係であり、移植後60分でのエアーバブルが子宮底部(奥)にあることが妊娠率向上に寄与することを示しています。もちろん、エアーバブルの位置は必ずしも胚の位置を示すものではありませんが、カテーテルを手間に置き、注入したエアーバブルが子宮底部(奥)に移動するパターンが良いのだと思います。