アッシャーマン症候群の手術成績 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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アッシャーマン症候群(子宮内癒着症)は、子宮内が癒着し、不妊症や不育症の一因となる疾患です。本論文は、子宮鏡手術により治療を行ったアッシャーマン症候群の治療成績を国家規模で調査したものです。

Fertil Steril 2015; 104: 1561(オランダ)
要約:2003~2013年にアッシャーマン症候群の診断で子宮鏡手術を行った638名の術後経過を調査しました。子宮鏡手術は、ハサミ鉗子や剥離鉗子を用いて、X線透視下に正しい子宮内腔を進み、卵管まで到達する方法で行いました。電気メスなどのパワーソースは内膜へのダメージを与えるため、一切使用せず、正常な内膜の温存に努めました。また、内膜の再癒着防止のため、術後IUD(子宮内挿入器具)を入れ、EP製剤を40日間を2コース行い内膜再生を促しました。2コース後の生理でIUDを除去し、その2週間後に子宮鏡で観察しました。1回目の子宮鏡手術で80%(512/638)、2回目の子宮鏡手術で70%(80/114)、3回目の子宮鏡手術で67%(14/21)の方の子宮内がきれいに治癒しました。つまり、95%(606/638)の方が3回以内の子宮鏡手術で治り、生理は98%の方で復活しました。28%(174/606)に子宮内癒着の再発が生じました。再発リスクは、最初の癒着の程度に比例して高くなっていました。癒着の程度は、流産後の癒着よりも出産後の癒着の方で重症の方が多くなっていました。なお、子宮穿孔は初回で2.5%(16/638)、2回目で3.5%(4/114)、3回目で4.8%(1/21)に認めました。

解説:アッシャーマン症候群は1894年に最初の症例報告があり、その約50年後の1948年にアッシャーマンが病態生理をまとめ報告しました。アッシャーマン症候群には2つのパターンが存在します。すなわち、内膜損傷によるものと内子宮口の狭窄によるものです。内膜損傷は、経産婦にも未産婦にも認められ、流産後(掻爬していない場合にも起きることがある)、出産後、子宮動脈塞栓術(UAE)後、子宮鏡手術後、子宮内感染後に起こります。アッシャーマン症候群の方は不妊症、無月経、生理減少、月経困難症、不育症、胎盤形成不全(前置胎盤、癒着胎盤)などに悩まされます。子宮内の癒着の存在と症状のいずれかを満たしたものをアッシャーマン症候群と呼びます。

オランダでは、ひとつの施設のみでアッシャーマン症候群の子宮鏡手術を実施しています。したがって、本論文のデータはオランダ全土の11年間のデータということになります。このような特殊な手術など、確率の低い疾患に対する治療は一箇所にまとめて行った方が、毎回の改善策の蓄積により治療成績が向上します。本論文の著者は、アッシャーマン症候群の治療にはセンター化が必要であるとしています。確かに、アッシャーマン症候群は滅多に遭遇しない疾患です。日本でも年間100件にも満たない症例数だと推察しますが、1施設で年に1~2件程度の経験では、手術のコツやポイントなどもつかめるはずもなく、手探りの状況ではないかと思います。本論文のデータは、驚異的な成功率を示していますので、ぜひ日本でもセンター化を進めて欲しいと思います。