培養液により胚の遺伝子発現が変化 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、培養液の違いにより胚の遺伝子発現が変化することを示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 2303(オランダ)
要約:多施設共同研究として、2種類の培養液(G5とHTF)をランダムに割り付け、胚発生と遺伝子発現を比較しました。951個の遺伝子が2群間で有意に異なっていました。特に、アポトーシス、代謝、蛋白合成、細胞周期調節に関与する遺伝子で大きく異なっていました。DNA複製(G1~S期)は、HTF群よりG5群で亢進しており、これはday 2(3.40 vs 3.73個)とday 3(5.84 vs. 7.00)の細胞数の違いと一致していました。さらに、着床率は、HTF群と比べG5群で有意に良好でした(14.7% vs. 26.7%)。

解説:動物では、培養環境の違いにより胚の遺伝子発現が異なることが知られていますが、ヒトでは明らかにされていませんでした。ただし、day 3までの培養環境の影響が、それ以降の影響よりも大きいことが報告されています。本論文は、培養液の違いにより胚の遺伝子発現が変化することを示しています。この変化が、生後のお子さんの発達や成長に影響するのかは不明ですが、Barker仮説あるいはDOHaD(developmental origins of health and diseases)の観点からすると、影響は否定できません。

Barker仮説、DOHaDについては、下記の記事を参照してください。
2012.11.8「☆妊娠中の栄養と出生児の健康:Barker仮説、DOHaD」

胚発生が良くない場合は、培養液を変更すると奏功することがあります。おそらく、様々な遺伝子発現に違いが見られるためと推測されます。培養液にもそれぞれの方に合うもの、合わないものがあると考えます。培養成績が毎回良くない場合には、培養液の変更を考慮するのも一法だと思います。