妊娠治療により出産した児の精神疾患の頻度 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、妊娠治療により出産した児の精神疾患の頻度が高い可能性を示唆しています。しかし、その因果関係は不明です。

Hum Reprod 2015; 30: 2129(デンマーク)
要約:1969~2006年に出生した2,412,721名について、母児ともに国家のデータベースを用いて後方視的に検討しました。デンマークでは1963年から妊娠治療の有無をデータベースに記載していますが、それによると、およそ5%の方が妊娠治療による妊娠•出産です。出生後の経過観察期間は、平均21年(0~40年)でした。お子さんの疾患データベースから、7%が何らかの外来を受診していました。妊娠治療をしていた母体から出産したお子さんは、精神疾患の頻度が有意に高く(1.23倍)、特に統合失調症(1.16倍)、情緒障害(1.21倍)、精神発達障害(1.15倍)ADHD(注意欠陥/多動性障害、1.36倍)で顕著でした。小児期と成人期でのこれらの発症には有意差を認めませんでした。

解説:これまでの研究によると、妊娠治療そのものではなく「妊娠しにくいこと」が様々な疾患のリスク因子であることが明らかにされています。疫学調査(統計)は、あくまでも「リスク因子」であるかを検討するための方策であり、因果関係を証明するものではありません。デンマークなど、北欧諸国では、国民皆保険+マイナンバー制により、すべての国民の病歴が一元管理できる仕組みになっています。このため、このような国家規模の研究が可能になっています。これをもとに、次のスタディデザインを考え、新しい発見がなされます。現状では結論的なことは言えませんので、今後の研究に期待したいと思います。

下記の記事も参照してください。
2013.2.15「☆妊娠までの期間が長いと早産リスクが増加」
2013.2.23「妊娠しにくい方のお子さんは喘息が多い? その1」
2013.4.20「妊娠しにくい方のお子さんは喘息が多い その2」
2015.9.3「妊娠治療により出産した児のリスクは?」