☆片側の子宮内膜症性嚢胞は妊娠の妨げにならない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、片側の子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢腫)は卵胞発育、排卵、妊娠を妨害しないことを示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 299(イタリア)
要約:2009~2013年片側の子宮内膜症性嚢胞(2cm以上、平均5.3cm)を有する244名の方(平均年齢34.3歳)を前方視的に調査しました(6周期まで)。左側の子宮内膜症性嚢胞が高い頻度(53.3%)で認められました。のべ1199周期の排卵は、健常卵巣が596周期(49.7%)、患側卵巣が603周期(50.3%)とほぼ同数でした。また、105名(43.0%)の方で自然妊娠が成立しました。なお、以上の事実は子宮内膜症性嚢胞の大きさによりませんでした。

解説:子宮内膜症は約4%の女性に認められ、このうち子宮内膜症性嚢胞は17~44%にみられます。右よりも左の卵巣で子宮内膜症性嚢胞が多い(約60%)ことが知られていますが、解剖学的な構造(腹水の対流)と月経血の逆流がその理由と考えられています。子宮内膜症性嚢胞は手術を行うと卵巣予備能が低下(AMHが減少)してしまいますが、再発も高頻度(11~30%)にみられますので、手術のメリットには疑問が残ります。一方、手術をしない場合の排卵は、健常卵巣と患側卵巣の比率が2:1であるとする報告もあり、患側卵巣の機能はそれほど悪くありません。このような背景のもとに本論文の研究が行われました。本論文は、片側の子宮内膜症性嚢胞は卵胞発育や排卵を妨害せず、妊孕性も損なわれていないことを示しており、妊娠を目指す場合には、子宮内膜症性嚢胞にはむやみに手を加えない(オペしない)方がよいということになります。

下記の記事を参照してください。
2014.4.23「☆卵巣嚢腫の取り扱いについて」
2013.8.31「☆チョコレート嚢胞とAMH」
2013.7.23「☆チョコレート嚢腫があると近くの卵胞はダメになる?」
2013.6.8「☆チョコレート嚢腫のある方の注意点」