血液型と卵巣予備能の意外な関係 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

日本人は血液型の話題が好きな国民ですから、今回の話には特別に引き込まれる何かがあるかもしれません。以前、2014.2.27「血液型と卵巣予備能の意外な関係」では、O型はA抗原所有者(A型、AB型)に比べ卵巣予備能が低下している可能性を紹介しましたが、この考えに否定的な論文もありました。本論文は、B抗原所有者(B型、AB型)では卵巣予備能が低下しているが、O型は卵巣予備能が良好で、A型は卵巣予備能が普通であることを示しています。

Fertil Steril 2014; 102: 1729(中国)
要約:2006~2012年に体外受精を実施した35,479名の方(45歳以下)を対象に、血液型と卵巣予備能低下の関連を調査しました。血液型は多い順に、B型(32%)、O型(30%)、A型(28%)、AB型(10%)となっています。O型は卵巣予備能低下(FSH値>10)の方が有意に少なくB抗原所有者(B型、AB型)で有意に多くなっていました。年齢、BMI、不妊期間、子宮内膜症、卵巣手術既往で補正したところ、卵巣予備能低下(FSH値>10)のリスクは、O型と比べB抗原所有者(B型、AB型)で1.5倍となりました。なお、A型はその中間です。

解説:前回ご紹介した論文(米国)と異なる結果が得られていますが、人種間で血液型の分布が大きく異なるため、一概に比較はできないのかもしれません。米国人の血液型は多い順に、O型(44%)、A型(42%)、B型(10%)、AB型(4%)となっています。日本人は、A型(40%)、O型(30%)、B型(20%)、AB型(10%)です。日本人はA型、米国人はO型、中国人はB型が最も多いことになります。本論文は3万5千人のデータを分析しており、前回ご紹介した論文の300~500名とは比較にならない程のデータ数であり、より信頼度が高いものと考えます。しかし、本来ならば日本人のデータが欲しいところです。

A抗原の産生にはA型 transferaseが、B抗原の産生にはB型 transferaseが関与しています。O型にはどちらの transferaseもありません。マウスではN-acetylglucosaminyl-transferase I 欠損により排卵が抑制されることが知られていますから、同種の酵素であるA型 transferaseやB型 transferaseが卵巣予備能に関連しても不思議ではありません。血液型を規定する抗原(A抗原やB抗原)は全ての細胞に存在する糖蛋白です。FSH受容体もLH受容体もA抗原B抗原と同様な糖蛋白であり、FSH受容体の反応性が卵巣予備能を規定しますので、transferaseによるFSH受容体の修飾作用があるのではないかと推測することもできます。また、ABO血液型を規定する遺伝子(9q34)の近傍に、卵巣予備能に関連するNR5A1遺伝子やTGFBR1遺伝子が存在するため、血液型と卵巣予備能がリンクするのではないかという考え方もできます。B型の方は卵巣癌の確率が高いとする論文も見られますが、卵巣予備能低下と癌のリスク増加は最近のトピックでもあります。

「血液型なんか関係ないよ」と思っていた方も大勢おられるかもしれませんが、ABO血液型を規定する遺伝子の近くに存在する遺伝子による様々な疾患との関連は十分あり得ると思います。